マイケル・ファスベンダーが語る、タイカ・ワイティティ監督の手腕「テレンス・マリックとの仕事を彷彿」
「私が魅了されたのは、米領サモアの人々が持つポジティブさです」
スクリーンでは、ファスベンダーが、まったく異質な世界にどっぷりと浸り、やがてその世界に魅了されていく様子が切り取られている。彼は自分があまり知らなかった文化を発見し、それらを自分の目を通して見ることで、なにか大きなものを得たに違いない。
「どのような映画であれ、ロケ地での撮影は特別なものです。その国の文化に瞬時に触れることができるのですから。観光客としてその国や場所に行くのとは違い、現地の人と一緒に仕事をするから、その場所がどこであれ、文化的な経験を直接得ることができるのです。この映画は米領サモアを舞台としてハワイで撮影されましたが、多くの俳優たちが米領サモア人でした。ですからその文化に親しみを持つことができたんです。また、ドキュメンタリーで私が魅了されたのは、米領サモアの人々が持つポジティブさです。西洋ではどうしても、成功か失敗かという概念が主流で、成功という概念が重要視されてしまいます。一方で、彼らの精神とポジティブさは、コミュニティで一緒になにかを経験することや、立ち上がってまた挑戦するといった粘り強さ、回復力から来ています。それはとても人を惹きつけるものですね」。
「カイマナは、まるで何年も経験してきたかのように現場に現れました」
共演のオスカー・ナイトリーやデヴィッド・フェインはとても才能のあるコメディアンでもあるが「あの2人と一緒に共演できたことはとても光栄でした。彼らはとても鋭くて頭の回転が早く、知的です。彼らは何年もコメディアンとしてやってきた経験があるので、私は彼らから学ぼうとしました。ただたいていの場合、笑わないようにと必死でした。それが、しっかりと耳を傾け、即興で演じることのおもしろさでもありましたが」。
ジャイヤ・サエルア役のカイマナとのシーンを経て、映画はよりシリアスで、父娘のような関係性へと発展していく。即興が展開の一部となるような空間に身を置くことになるが、コメディではなくよりシリアスになるシーンをどのように作り上げていったのだろうか。
「基本的には同じ原理で、お互いにしっかりと耳を傾けることです。カイマナは、まるで何年も経験してきたかのように現場に現れました。彼女の演技には、常に真実と誠実さがあります。彼女はとても正直ですし、愛嬌があり、一緒に演じやすかったです。私は彼女と一緒にシーンを演じることが好きでしたし、自分の好きなシーンのいくつかは彼女とのものです」。
今回とてもコミカルな演技で、新境地を見せているファスベンダー。「私はいつだって、少しのコメディ要素をできれば取り入れようとしています。コメディは観客の緊張をほぐすいいツールだとも思いますし。とても緊張感の高いものを演じている場合、観客が息抜きできる場面が必要ですし、そうするために私も楽しんでいます。この映画を撮ったのは、実は『Kung Fury 2』という別のコメディ作品を撮った直後でした。いつかその作品も日の目を見るといいのですが。とにかく、ふざけて楽しむのが好きですね。楽しいです」。
ファスベンダー演じる鬼コーチのぶちぎれシーンも愉快な本作。ワイティティ監督らしいユーモアと、米領サモア人ならではの温かさに心を打たれるヒューマンドラマ『ネクスト・ゴール・ウィンズ』をぜひ映画館で観戦していただきたい。
文/山崎伸子