杉咲花「みなさんの声を真摯に受け止めたい」『52ヘルツのクジラたち』舞台挨拶で覚悟のコメント!志尊淳「背中を押してくれるような作品に」
映画『52ヘルツのクジラたち』(公開中)の初日舞台挨拶が3月1日、TOHOシネマズ六本木ヒルズにて開催され、主演の杉咲花、共演の志尊淳、宮沢氷魚、小野花梨、桑名桃李、成島出監督が登壇し、作品への想いや撮影時のエピソードを披露した。
2021年本屋大賞受賞の町田そのこの原作を映画化した本作。東京から海辺の街の一軒家に移り住んできた主人公の三島貴瑚(杉咲花)、トランスジェンダーであることを打ち明けられずにいる岡田安吾(志尊淳)、母親のネグレクトに遭っている“ムシ”と呼ばれる声を発することのできない少年(桑名桃李)らの悩み、葛藤しながら、希望を見出そうともがく姿を描く。
「長い道のりだった」と映画公開までを振り返った杉咲は「議論を重ねながら作品を深めていく時間は、骨の折れるような日々でした」としみじみ。骨の折れるような日々を過ごしたが「とても真剣な現場。こんな現場に関われることが幸せなことという想いで紡いできました。ホッとしています」と安堵した。
映画の宣伝活動をするなかで「どう説明したらいいんだろう。ぜひ観てね!と安易に言えない部分があります」と話した志尊は「(映画を観て)嫌な気持ちを持つ人がいないという思いもあります」と正直な気持ちを言葉にし、「杉咲花をはじめ、みんなでぶつかり、時には苦しい思いをして作った作品です。たくさん人に観てもらえることがなによりの救いです」と胸の内を明かした。
成島組は何度も繰り返しリハーサルをする。「クランクイン前にシーンへの向き合い方、感情の作り方と向き合えたこそ、(本番で)シーンに入り込むことができました」と充実感を滲ませた宮沢。杉咲も「ほとんどのシーンをリハーサルしました。まずウォーミングアップとしてみんなでゲームをして、エチュードで深掘りをするような時間でした」と丁寧な作品作りに触れる。志尊は居酒屋に入るシーンに触れ、「監督から『なんでここに座ったの?』と訊かれて。『役はいま、こういう状況。じゃあ、どこに座る?』と問われて。ものづくりってこういうところから作るべきだと身が引き締まる思いでした。緊張感を持ってリハをやれた期間は、貴重な経験でした」と笑顔を見せていた。
杉咲と10年来の親友である小野は原作の大ファン。杉咲に原作をすすめたのも小野だったそう。「たくさんの人に読んでほしいと思った原作です」と微笑んだ小野は「杉咲花主演ということにビックリしたけれど、原作の素晴らしさを残しつつ、映像化するうえで、新たな魅力を加える一部になれるようにしました。身の引き締まる思いでした」と当時の意気込みを語っていた。
共演者が優しく、現場に行くのが楽しかったと撮影の思い出を語った桑名と杉咲の間にはコミュニケーションのルールがあったという。ロケ地の大分に行った際に「ルールを作ろう」と話したそうで、「桃李は『思ったことを何でも言いたい』と言ってくれたんです。私からは『毎日朝会ったらハグするのはどう?』って提案しました」と話した杉咲。敬語をやめ、“花”と呼んでもいいと伝えたある日、「できないです」と断られたそうだが、撮影が進むと「花って呼んでいい?」と桑名から言われたとニッコリの杉咲は「気づいたら敬語も外れていて。一緒に過ごした時間が心を解放してくれたのかと思うと本当に嬉しかったです」と喜びを噛み締めていた。
イベントでは今月5日に29歳の誕生日を迎える志尊にバースデーケーキと花束がプレゼントされるサプライズも。20代最後の1年の最初の作品が本作になることについて「僕が歩んでいくなかでも背中を押してくれるような作品になると思います」と胸を張っていた。
最後の挨拶で杉咲は「議論が起こることを想定しているし、みなさんの声を真摯に受け止めたいと思っています」と本作の反響への心構えを明かす。映画を撮り終え完成しても「やり切った」とは手放しで喜んでいないとし、「時代のなかで乗り越えていく作品になってほしい。将来、この作品を観返したときに“こういう悲劇が描かれていた時代があった”と思われてほしい。そのためにこの作品が作られたのではないか、と信じています」と力を込める。
続けて「人の痛みをすべてわかることはできなくても、わからないことは無力ではないと思うんです。わからないからこそ知りたいと思えるし、優しくしようと思える。共感できなくても隣にいることはできるし、大切なものを分け合うことができます。だからこそ、どうか諦めないで人と関わってほしいという映画のメッセージを大切に受け止めたいです。私たちは、責任を持って届けますので、一瞬でも光を感じていただけたら嬉しいです」と思いを伝えてイベントを締めくくった。
取材・文/タナカシノブ