“殺し方”の変化からVR表現の意図まで、観客の質問に次々回答!『ペナルティループ』荒木伸二監督×宇野維正によるティーチインをロングレポート
「”殺しショー”みたいにすることも出来たけれど、ここまで設定を作り込んでも、僕はリアリズムにこだわりたい」(荒木監督)
そのほか、岩森の気持ちと共に変化する溝口の殺し方や、前日まではカバンに入っていなかった道具の登場についても質問が飛ぶ。「淳は恋人を失って寂しさのあまり、何度でも復讐できるプログラムの”ペナルティループ”に契約したけれど、次第に息切れする。怒りの感情が目減りしていった時に、操られて殺すようなシチュエーションがあったり、運営側が銃を忍ばせる。戦争なども含めたら、撃ち殺されて殺されてしまった方がたくさんいることに、怖いという感情を覚えたんです」と述懐する荒木監督。「もし全員ナイフで殺されていれば、殺した側にも嫌な感触が残っただろうなって。”殺しショー”みたいにすることも出来たけれど、ここまで設定を作り込んでも、僕はリアリズムにこだわりたい」と語った。
岩森がここまでの復讐心を持った理由を知りたいという宇野の質問に「岩森は大好きな恋人だけでなく、”生活”そのものを失ったと思っているんです。画家を目指しながら建築のバイトをなんとなくしながら生きていた。張り合いがない、絵も描けなくなるかも…となっていたところで唯と出会い、生活に張りが生まれていたのに失ってしまう。相手のことが好きとかいう強い感情よりも、それによって”生かされていた”部分が断ち切られてしまうんじゃないか。そんなことを若葉くんと話しました」と、岩森演じる若葉とのやりとりも明かした。
岩森の家がビニールに覆われていた理由、ポスタービジュアルの工場の場所など、細かいシーンへの質問に一つ一つ丁寧に回答した荒木監督。「たくさんの疑問が残ったり、どうなっているだろうと思った方も多いはず。ですが、僕は99分の乗り物を作ったつもりなので、乗り物として楽しんでほしいですし、ぜひまた乗ってほしいです。噛み砕きやすい感想、こう言えばいいという提示をしていない映画でこれだけの質問が出て、直接セッションができて楽しかったです」と満面の笑みで感謝の気持ちを伝え、大きな拍手を浴びていた。
取材・文/タナカシノブ