リアルな人間模様と社会問題…『12日の殺人』ドミニク・モル監督が語る、“未解決事件”を描く映画術

インタビュー

リアルな人間模様と社会問題…『12日の殺人』ドミニク・モル監督が語る、“未解決事件”を描く映画術

21歳の女子大生が帰宅途中に何者かにガソリンをかけられた上に火を点けられ、翌朝焼死体となって発見される。フランスで実際に起きた衝撃的な事件を下敷きにし、その捜査にあたる捜査官たちを描いた『12日の殺人』が本日公開された。本作のメガホンをとったドミニク・モル監督は、この“未解決事件”を映画として描くにあたり「実話の再構築としてではなく、ひとつの物語として扱いたいと考えていました」と、特に重視したポイントについて語る。

「事件解決が映画のゴールにはならないからこそ、登場人物たちに注視してほしい」

「この作品はポーリーヌ・ゲナのノンフィクション『18.3 – A Year With the Crime Squad』を原案にしています。それはゲナ自らが1年間にわたって捜査官たちを取材し、観察した内容が記された、とてもディテールが豊かな作品です。捜査官が日々どんな仕事をしているのか?映画ではよく犯人を追ったり銃を抜いたりエキサイティングなことが描かれていますが、実は事務仕事が多い。そうしたリアリティをこの映画でも見せたいと感じたことが始まりでした」。

およそ500ページにも及ぶ著書の最後数十ページで描かれていたのが、本作の基となった事件だ。「私がそれに興味を惹かれた最大の理由は、やはり未解決事件であるということでした。本作のように警察の捜査を描く作品には、犯罪が起きて捜査が始まり、犯人が見つかり映画が終わるという一つの決まりきったルールが求められる傾向があります。しかし未解決事件であれば、そのルールに沿ったものにはならないのです」。

やがて捜査は暗礁へと乗り上げ、未解決のまま月日だけが流れていく
やがて捜査は暗礁へと乗り上げ、未解決のまま月日だけが流れていく[c] 2022 - Haut et Court - Versus Production - Auvergne-Rhône-Alpes Cinéma

そう語るモル監督は、本作と同様に実在の“未解決事件”に挑む者たちを描き世界中で大絶賛を浴びたポン・ジュノ監督の『殺人の追憶』(03)やデヴィッド・フィンチャー監督の『ゾディアック』(07)を例に挙げ「事件が解決することが映画のゴールにはならないので、それだけ登場人物たちのドラマ、捜査官たちが抱える執念を描くことができます」と未解決事件の映画をつくった意図を明かす。


それをよりアピールするかのように、本作の冒頭にはこれから描かれる事件が未解決であるというテロップも表示される。「最初にそれを観客に提示することが、本作には必要不可欠でした。もしこれがミステリーのように最後に答えがわかると思っていたら、きっと観客の皆さんは捜査官と一緒に事件を解決していこうと考えながら映画を観てしまうでしょう。ですが、これは未解決事件の映画。最後まで観ても答えはわからない。だからもっと登場人物たちに注視していいのだとこちらからサジェストする。そういうねらいがありました」。

バスティアン・ブイヨン演じるヨアンは、事件捜査にどんどんのめり込んでいく
バスティアン・ブイヨン演じるヨアンは、事件捜査にどんどんのめり込んでいく[c] 2022 - Haut et Court - Versus Production - Auvergne-Rhône-Alpes Cinéma

「そしてもう一つ、この事件に惹かれた理由があります」とモル監督は続ける。「捜査官という生き物には生涯のうちに、どうしても忘れられない、執着してしまうような事件が必ずあるということです。原案の著書のなかでも1人の捜査官が、本作の主人公であるヨアン同様、事件に執着していく。それはやはり未解決であるということが大きく関わっているのでしょう。事件を解決できないということが、彼らにどんなフラストレーションを与えていくのか。自分はどこで間違えたのか、あの時ああすればよかったなど、彼らは自問し続けることになるのです」。

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