リアルな人間模様と社会問題…『12日の殺人』ドミニク・モル監督が語る、“未解決事件”を描く映画術
「この映画が、真犯人の逮捕につながることを切に願っています」
同時にこの映画では、被害者の異性関係に焦点を絞って捜査を行く捜査官たちの偏った先入観の問題や、#MeTooムーブメント以降大きく取り沙汰されるようになった、男性による暴力であったり、“マチズモ(=男性優位主義)”や“トキシック・マスキュリニティ(=有害な男らしさ)”といった現代的なテーマにも触れていく。
「これまで手掛けてきた作品で男性の暴力を描く際には、トキシック・マスキュリニティとしてではなく、あくまでもストーリーの一部として、あまり意識的に描いていたことはありませんでした。しかし#MeToo以降でより意識的になり、これが大きな問題であると認知するようになりました。いままでもあったけれど、もう作り手として無視できない問題になっている。そう強く感じています」。
映画の中盤、主人公のヨアン(バスティアン・ブイヨン)と被害者クララ(ルーラ・コットン・フラピエ)の親友であるナニー(ポーリーヌ・セリエ)との対話のシーンで「クララはまるですべての男性が殺したようなもの」という台詞が登場する。モル監督はこのセリフについて、「すべての男性が犯罪者だと言っているわけではありません」と説明する。
「ですが、物理的な暴力と男性性にはなんらかの関係があるのではないかと私は考えています。女性による暴力もあるが、圧倒的に男性によるものが多いのはなぜなのか。自分が男性として暴力的な衝動について考えるのであれば、それがどこからきて、どうコントロールすべきかを考えるべきだし、観客の方々にも本作がそれを考えるきっかけになってくれればいいと思っています」。
2022年の第75回カンヌ国際映画祭でプレミア上映された本作は、同年夏にフランスで公開されヒットを記録。そしてフランスのアカデミー賞ともいわれる第48回セザール賞では作品賞や監督賞など最多6部門を受賞。その授賞式でモル監督は、この映画が実話がベースになっていることを明かし、被害者の女性に哀悼の意を表していた。
「最初に述べたように物語としてこの映画を作る上では、原案の本に書かれている以上のこと、つまり実際の事件のことを事細かに知る必要はありませんでした。ですが大前提として、その事件には被害者がいて、愛する娘を失った家族がいます。だからこそ私には、敬意を尽くしてこの作品に取り掛かる責任がありました。フランスでは数年前に未解決事件を扱う専門班が設立されました。セザール賞の直後から、その専門班がこの事件の再調査に踏み切ったと聞いています。この映画が、真犯人の逮捕につながることを切に願っています」。
取材・文/久保田和馬