A24『パスト ライブス/再会』にアーティスト・女優の石野理子が共鳴。惹かれたのは“台詞によって語らない演出”と”言語感覚”
セリーヌ・ソンの長編初監督作品ながら、第96回アカデミー賞では作品賞と脚本賞の候補となった『パスト ライブス/再会』(公開中)。本作は、幼なじみである男女が24年ぶりに再会を果たす姿を描いたラブストーリー。auスマートパスプレミアム会員であれば、上映期間中は土日祝日を問わず1100円(高校生以下は900円)で鑑賞できる作品となっている。今回MOVIE WALKER PRESSでは、この話題作をいち早く鑑賞した、アーティストであり俳優の石野理子に作品の魅力を多角的な視点で語ってもらった。
※以降、ストーリーの核心に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。
「ノラ、ヘソン、アーサーのそれぞれに共感できるところがありました」
「映画人が選ぶ、ベスト映画2023」では『私、オルガ・ヘプナロヴァー』(16)や『エンパイア・オブ・ライト』(22)をセレクトした石野は、普段から劇場によく足を運んでおり、製作国やジャンルを問わず映画を楽しんでいる生粋の映画ファン。映画ファンの間で早くから話題になっていた『パスト ライブス/再会』にも興味をひかれていたそうだ。
『パスト ライブス/再会』では、ソウルで暮らしていたノラ(グレタ・リー)とヘソン(ユ・テオ)の12歳、24歳、36歳という3つの時代が描かれる。ノラの家族が海外へ移住したことによって、2人は離ればなれになってしまうが、24歳の時にオンラインで再会。時を経て36歳となった2人は、すれ違いの末にニューヨークでついに再会を果たすのだが、ノラは作家のアーサー(ジョン・マガロ)とすでに結婚していたというのが本作のストーリーだ。
「きっと私は、執着してしまう一途なタイプだろうと思うので(笑)、ヘソンが12歳から36歳までの長い間ノラを想い続ける気持ちが理解できるし、共感するところがありました。一方で、同じ女性の立場からすると、自分のキャリアを意識しながら、目の前のやるべきことに集中し、早めに決断していくノラの気持ちもわかるなと思いました。あと、韓国語がわからないアーサーが、3人で話している時に、ちょっと疎外感を覚えている描写がありましたよね。国籍や人種が違ったとしても、例えば友だちと一緒にいた時に、話題にまったくついて行けない時の気持ちに近いものが、もっと深いところですけど、きっとある。そう思って、3人ともに共感できるところがありました」と、石野はそれぞれの登場人物に心を寄せる。「それから、印象的な台詞も結構あって。“大事なものを失って、また別の大切なものを得る”とか、ノラがヘソンに対して“12歳の頃の私はあなたのもとに置いてきた”と突き放すような言い方をするところや、アーサーが“君には僕の届かない、到達できないところがある”と寂しさとか不安を吐露する台詞とか。ノラがそれに対して“でも、やっと私はここにたどり着いた”と返すシーンは、すごく印象的でした」。
「ノラは、自分の想いが“縁”にかなわないことがわかっているように見えました」
劇中では“イニョン(縁)”という言葉が繰り返し使われている。ノラという人物は、家族の事情など、周辺の変化に飲み込まれてしまうことがある一方で、ある部分では自ら決定を下しているような印象もある。石野は「ノラは決断力も行動力もある女性ですが、自分の想いは“縁”にかなわないことがわかっていて、タイミングに委ねているようにも見えました。24歳の時に、ノラとヘソンがFacebookで毎日のようにやり取りして、お互いに会いたい気持ちが募ったけれど、もどかしい気持ちが勝って、距離を置く選択をしたことは、ノラにとって大きな決断だったと思うんです」と解釈。
“縁”は本作における重要なモチーフだが、石野は自身の人生においても重要なものだと語る。「このお仕事をして10年くらい経つんですけど、12歳とか13歳のころに出会った方のなかには、“その人がいなかったら、きっといまこの仕事ができていないだろうな”と思うような方がいたり。いろんな経緯があってバンドが解散することになったんですけど、いまのマネージャーさんは、それでも“もう1回一緒にやろう!”と言ってくださって。ここまで“縁”が続いているんです」。