全編iPhoneで撮影した『ミッドナイト』三池崇史監督×賀来賢人にインタビュー!「映画界のルールや常識にとらわれない表現を」
「俺、悪いことしてるのかな?と、男心がくすぐられる撮影でした」(賀来)
――iPhoneを実際に映画の現場で使ってみていかがでしたか?
三池「我々が普段、映画用のカメラで撮っているのと同じやり方で使ってみて、それでどれだけ映像のクオリティが変わるのか?監督としての興味とスタンスはそんな感じですけど、大変だったのは撮影部、照明部などの技術パートですね。要はiPhone 15 Proはなにが得意で不得意かを把握しなきゃいけない。けっこう時間をかけてそのテストをいろいろやって試してみたけれど、結果的には『あっ、全然大丈夫じゃない?』ということで。監督としてはそれによって演出を変えるのではなく、むしろiPhone 15 Pro Maxの特性を活かすことを心がけました。普通の映画ではよほどのことがない限り、ズームは使わないんだけど、今回は5倍ズームで被写体に瞬時に寄ったし、CG合成のシーンで使う車のスキャンまでしましたから」
――メイキングを観て、そんなことまでできるんだと思いました。
三池「iPhoneはうちの孫でも持ってますから、小学生でもやろうと思えば映画が撮れるんですよ。だから、逆にこれから大変だなと思って(笑)」
――若い人たちに追いつかれてしまうということですか?(笑)
三池「プロになって食べていくかどうかはまた別の話ですけど、おもしろいことになっていくだろうなっていうね。例えば写真の場合、みんな同じようにスナップを撮るけれど、森山大道のような写真はなかなか撮れない。やっぱり圧倒的な“なにか”で生き様をぶつけていかなきゃいけない。生き様って、人生そのものじゃないですか?映画を撮れるカメラ(iPhone)を常に手に持っているのが当たり前の世代の子たちが、自分の人生をかけてどんな映像を撮るのか?そこにはすごく興味がありますね」
――賀来さんは今回iPhoneで撮影されて、普段の映画やドラマの現場との違いは感じました?
賀来「撮られること自体はなにも変わらなかったですね。ただ、iPhoneは狭い場所などいろいろなところに置くことができるし、小回りが利く。例えば、アクセルのギリギリのところにも仕込めるから、iPhoneならではの視点の画がいっぱいあっておもしろいなと思いました」
――iPhone 15 Proの機能を使っておもしろいものが撮れたなと思うシーンはありました?
三池「自分がすごく興味深かったのは、合わせたいところにフォーカスを瞬時に合わせられるシネマティックモードですね。ワンシーンをまるまるそれで撮ったシーンもあります」
――それはどのシーンですか?
三池「ミッドナイトが出会ったカエデとお茶を飲んで、悪い奴にねらわれて逃げるところまでの『どこだ、この街は?』っていうところですね。あそこはひとつのカットではなくて、シーンをまるごとシネマティックモードで撮ったんですけど、フォーカスが表現者にとっていかに武器になるのか?というのがよくわかるし、助かりました。それにこのモードがいいのは、フォーカスを失敗しても直せるところ。あとで簡単に調整できるのは便利だし、そこはiPhoneならではです」
賀来「ゲリラ撮影にも向いてますしね」
三池「歌舞伎町は海外の人が多くて、みんなスマホで撮影してますからね。俺らが撮影してもその一部に過ぎないんですよ」
賀来「あれは、近年でいちばん興奮した撮影だったかもしれない。悪いことしてるのかな、俺?でもやっちゃえ!みたいな、男心をくすぐる撮影でした(笑)」
――賀来さんにとって、今回初めてタッグを組んだ三池監督の印象は?
賀来「映画作りを本当に楽しまれている方なんだなっていうのは前々から思っていたんですけど、それを今回の現場で実際に感じて。欲を言えば、もうちょっとガッツリやりたかったですね」
三池「今回はほぼ全部のシーンを絵コンテに起こしていて。演じる賀来さんは、その絵コンテを見ながら、ミッドナイトという謎のキャラクターのリアリティをご自身の身体の中に滲み出させるのが仕事だったわけです。普通はその時に監督とディスカッションして、演技を組み立てると思うんですけど、尺も短いし、今作は謎が謎のままで終わる登場編みたいなものだから、俳優としては物足りなさはあったでしょうね。でも、それが軽やかでいいなと思って。しかも、モニターで賀来さんの芝居を見てるじゃないですか。そうすると、やっぱりフライドチキンが食べたくなるんですよ(笑)」
賀来「それってマズいんじゃないですか!(笑)」
三池「いやいや、ものすごいパワーを感じました」
賀来「ミッドナイトにはいろんな表情があるけれど、今回はわりとクールなパートでしたしね」
三池「それに、クランクインまでの間に『このキャラクターはなんなんだ?なぜこんなことをしているんだ?』っていうことに関する打ち合わせは一切してないですから。原作があって、台本があって、衣裳合わせの様子を見ながら、賀来さんがご自身の解釈であのミッドナイトを作り上げたんです」
――三池監督の指示などは反映されてないわけですね。
三池「そのやり方は監督にもよるし、仲間になるのはいいと思うんですけど、僕らは感性も育ちもなにもかも違う。俳優と監督って、そもそも立場が違うじゃないですか。それこそ、俳優が台本を読んだ時の役というのは僕らにも想像できるけれど、それは想像でしかない。自分がこの役をやるんだ!という意識で台本を読んだ人とは、浮かび上がるキャラクターが絶対に違うはずなんですよ」
賀来「それはそうかもしれませんね」
三池「そこはバラバラのほうがいい。ひとつにまとまって、なにか得るものがあるんだろうか?って思いますしね。でも撮りながらお互いに与え合い、求め合っていくような現場だったので、ストレスは全然なかったですよ」
賀来「僕は、とりあえず(ミッドナイトの扮装をした)自分に見慣れるってところから始めました。自分が動いたり、言葉を発した時にしっくりくればいいんですけど、ミッドナイトのキャラは濃いので、そこに持っていくまでが大変でした。これまでもキャラの濃い役はいろいろやりましたけど、ミッドナイトはそのなかでもルックスが奇抜で強いほうですから。撮影初日のワンカット目などは、いったいどういう人なんだろう?って探りながら演じていましたね」
――賀来さんは、今回の現場を経験して、自分も撮ってみたいと思われたんじゃないですか?
賀来「監督業はやっぱり専門職だし、僕にはまだまだ知識が足りないです」
三池「いやいや、やれるでしょ。まずはプロデュースをやって、制作全体を見ながら映画作りの仕組みや監督の役割を知っていく。別に、真似する必要はないわけじゃないですか。たぶん求められるのは『誰々みたいな作品』ではなくて、誰も観たことがない独創的なもののはずだから、要は先生はいらないわけですよ」
賀来「確かにそうですね」
三池「オリジナリティに溢れたものをやろうとしても、僕らはどうしても現場のルールや常識に引っ張られてしまう。そのルールや常識を冷静に見て、知ることは必要です。でも賀来さんは、僕らのように制約を受ける必要はないので、強いと思います。もういっぱしの俳優だし、やれる立場にある。その日が来るのも、そんなに遠くないんじゃないですか?楽しみにしてますよ(笑)」
賀来「いやいやいや(笑)」
取材・文/イソガイマサト