『四月になれば彼女は』川村元気×山田智和監督にインタビュー。「一つの目標に向かってみんなで闘える“映画”は幸せな現場」 - 2ページ目|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『四月になれば彼女は』川村元気×山田智和監督にインタビュー。「一つの目標に向かってみんなで闘える“映画”は幸せな現場」

インタビュー

『四月になれば彼女は』川村元気×山田智和監督にインタビュー。「一つの目標に向かってみんなで闘える“映画”は幸せな現場」

「映画化にはタイミングがある。今回は、待ってよかったなと思いました」(川村)

――山田監督のMVでは、屋外で前へ前へと進んでいく人間の姿がよく映しだされます。映画『四月になれば彼女は』でも、ひたすら前進する春の姿や、歩きながら大切な会話をする藤代と弥生のありようがとても印象的です。移動や前進というテーマが山田監督の中にあったりしますか?

山田「たぶんそれはフェチズムに近いものだと思います。“人が歩いている”ということに興味があって。宮﨑駿さんのアニメーションを観ていても、走ったり歩いたりしているシーンが気になる。歩いている時の土からの影響。走っている時の風の感じ方。そこにイマジネーションを感じるんです。結局、景色ではなくて人を撮りたい。MVでも、一番人間らしい瞬間を選んでいます。普通に歩く、というのが一番その人らしい。歩いていると風景も呼応するし、そんな風景の中で歩いているからこそ、その人もまた違って見えるという相互関係。やはり、人に興味があるんです。フィクションを作りながら、画面に映っているその人の嘘のなさに触れる。それをストーリーに返すことで強度が生まれるといった、そんなことを常に期待していますね」

藤代の大学時代の恋人、春(森七菜)
藤代の大学時代の恋人、春(森七菜)[c]2024「四月になれば彼女は」製作委員会

――川村さんは、今回の映画でどんな発見がありましたか?

川村「映画を観て発見したのは、言葉ではないところでしたね。たとえば、写真が現像されていく描写。フィルムを記憶のメタファーとして使っているわけですが、まさにこれは恋愛だなと。その最中はなにが起きているかわからないけれど、時間が経つとわかったりするのが恋愛。フィルムに置き換えると、撮った瞬間はなにが写っているかわからないけど、現像してみたら『ああそういうことか』とわかる。小説でもそこをねらって書いていましたが、フィルムというモチーフは映像だとすごく説得力がある。写真が浮かび上がるように、恋人の正体らしきものが浮かび上がる。愛する人のことを時間差で理解するということも恋愛の重要なのかなと」


――本作は、準備にも仕上げにもたっぷり時間をかけています。だからこそ恋愛の「時間差」の真実も、イマジネーションを喚起する豊かな編集に導かれていると感じます。熟成と言いますか。

川村「タイミングというものがあるんですよね。たとえば僕が新海誠に出逢ってから『君の名は。』が出来るまで16年かかっている。『ほしのこえ』が出来た時に、僕は新海さんに逢いに行きました。お互いまだ何者でもない状態で、すぐに企画は成立しなかったけど、16年かけたら『君の名は。』になった。いまのスマホ時代はすぐ結果を出して具現化したくなるけれど、僕が『四月なれば彼女は』を書いた30代のころには、映画化を任せたい人がどうしてもいなかった。自分が40代になって、もうあのころの感覚ではないなと思った時、佐藤健、長澤まさみ、山田智和の3人が、この物語にふさわしい30代になっていた。待ってよかったなと思いました。僕は待ちながら考えるのは嫌いではないので」

弥生の疾走と時を同じくして、春から突然手紙が届く
弥生の疾走と時を同じくして、春から突然手紙が届く[c]2024「四月になれば彼女は」製作委員会

――山田監督にとっては、どのようなタイミングでしたか?

山田「主人公たちと自分の状況に重なる部分があったので、等身大で作ることができました。もちろん、元気さんたちへの信頼感があったうえでのことです。ものづくりをしていると、なぜかすべてがするすると上手くいく不思議な瞬間があったりしますが、今回はまさにそうでした。これはそうそうあることではありません。『いつかは長編映画を』という想いはありましたが、今回こんなふうに作れたことが、自分の中でいい意味で、高いハードルになりましたね。またこのような巡り合わせが来た時のために、目の前にある表現に一つずつ向き合って、自分の『剣』を磨いておきたい。いまはそう考えています」

藤代と弥生が辿る結末とは――
藤代と弥生が辿る結末とは――[c]2024「四月になれば彼女は」製作委員会

――川村さんのものづくりの根本にあるのは、やはり「待つこと」ですか。

川村「最近は、自分が信じられる人と一緒に、なるべくユニークなものを作りたい、類を見ないものを作りたいという想いが強い。映画制作を20年近くやって、作品は40本を超えている。そうなると、類を見ないものとはなんだろう?と考えます。そのためにも、いろいろな作り手が映画界に来てくれるといいなと。自分も監督をやる時もあれば、原作者をやる時もあるし、プロデューサーをやる時もあるから、それぞれの仕事に刺激を与えるようなおもしろい表現をしたい。これからは、俳優がプロデューサーになることも増えていってほしい。それぞれの立場に回った時、それぞれが磨いてきた『剣』で勝負できるような『傭兵』たちが集まって映画を作ったら絶対おもしろい。なので、より多様な企画に取り組みたいですね。やはり小説を書いてるのは大きいのかな。一人でゼロから書いて、それを世に問うわけですから。つまらなかったら、すべて自分のせい。ストリートファイトしてるようなもので、これはキツい。そんな野良喧嘩をしてから映画に戻ると、すごくほっとするんです。映画はみんなで作るから」

山田「僕も今回『自分は一人じゃない』と何度も思うことができました。これが映画の醍醐味だなと。いろんな部署がないと成立しない総合芸術。だったら、共同作業を楽しむほうが絶対いい。映像監督なので、頭の中で考えることを実現したいという欲求はもちろんあります。でもそれよりも、おもしろいものを作りたい。人に届くものを作りたい。自分の得意技が使える時はもちろん幸せ。でもそれ以上に、たくさんのアイデアマンがいて、それぞれの得意技を持ち寄って、ある一つの目標に向かって闘えるのは、本当に幸せだなって。結果、自分の得意技も『その先』で合流する。自分がイメージしていたものより、はるか遠くに行ける。今回も遠くまで連れて行っていただきました」

山田智和監督と原作者の川村元気
山田智和監督と原作者の川村元気撮影/YOU ISHII

取材・文/相田冬二

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