“魔女”と呼ばれた作家の半生に迫る心理サスペンス『Shirley シャーリイ』7月5日公開決定!
『空はどこにでも』(22)のジョセフィン・デッカーが監督を務め、マーティン・スコセッシが製作総指揮を担当する映画『Shirley シャーリイ』の公開日が7月5日(金)に決定し、あわせて場面写真も解禁された。
本作は、スティーブン・キングも影響を受けたと言われるゴシック作家シャーリイ・ジャクスンの半生をモチーフにした心理サスペンス。彼女による小説だけでなく、配偶者で文芸評論家でもあったスタンリーとの数百通にわたる手紙をもとに、作家自身のキャラクターを描きながら、ジャクスンの小説世界に迷い込んだかのような、幻惑的な映像に仕上がっている。
1948年、「ニューヨーカー」誌上に発表した短編「くじ」が一大センセーションを巻き起こしたのち、新しい長編小説に取り組んでいたシャーリイ(エリザベス・モス)だったが、スランプからなかなか抜けだせずにいた。小説の題材になったのは、ベニントン大学に通う18歳の少女ポーラが突如として消息を絶った未解決の失踪事件。同じくベニントン大学教授である夫のスタンリー・ハイマン(マイケル・スタールバーグ)は、引きこもってばかりいるシャーリイの機嫌をとって執筆へ向かわせようとするもうまくいかない。
そんな2人のもとへ一組の夫妻が居候としてやってくる。文学部でハイマンの補佐として職を得たフレッド(ローガン・ラーマン)は、妻ローズ(オデッサ・ヤング)とともにバーモント州の学園都市への移住を計画していた。“新居が見つかるまでの間、無料で部屋と食事を提供する代わりに家事や妻の世話をしてほしい”というハイマンに半ば強引に言いくるめられた夫妻は、なにも知らずにジャクスンとハイマンと共同生活を送ることになる。当初は他人が家に上がり込むことを毛嫌いしていたジャクスンだったが、ひどい扱いを受けても懲りずに自分の世話を焼くローズを通じて、次第に執筆のインスピレーションを得るようになる。一方、ローズはジャクスンの魔女的なカリスマ性に魅入られ、いつしか2人の間には奇妙な絆が芽生えていく。しかし、この風変わりな家に深入りしてしまった若々しい夫妻は、やがて自分たちの愛の限界を試されることになるのだった…。
監督のデッカーはジャクスンについて「ある批評家か伝記作家が“シャーリイは政治的な作家ではない”と指摘していたが、しかしシャーリイは私的なレベルにとどまりつつ政治を意識していたと思っている」と語る。そして「だからこそ彼女の作品はいまでも響き続けるのだ。彼女の作品は非常に人間的だから時代を超えて読まれている。シャーリイは非日常的な設定、心理描写、あるいは潜在意識に訴える巧みなリズムを使って人種差別、階級差別、性差別と闘っていたのだ」とその魅力について語っている。脚本を手がけたサラ・ガビンズは長年、文学とかけ離れたホラー作家として扱われてきたジャクスンについて異議を唱える。「彼女は数多くの短編や長編を残したが、ホラー作品によくある吸血鬼やゾンビや幽霊や神話上の怪物は登場しない。その代わり日常のありふれた風景のなかに恐怖を見出すのがシャーリイの小説の特徴でもある。“人間こそ恐ろしい怪物であり、私たち自身の精神が血に飢えた悪魔的な妖怪であり、私たちの社会はのどかなパーティーを楽しみつつ石打ちの刑にも加われる気まぐれな人々の集まりである”」と述べている。
ジャクスンを演じたのは「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」のモス。そのほか『君の名前で僕を呼んで』(17)などに出演し、名バイプレーヤーとしても評価の高いスタールバーグ、『グッバイ!リチャード』(18)のヤング、『ウォールフラワー』(12)のラーマンら、一流キャストが集結している。
このたび解禁されたのは7点の場面写真。光の届かない森のなかに机を置き、妄想か現実か区別のつかないなかで新作の執筆にたずさわるシャーリイの姿や、彼女がなにかを見据えて不穏な表情を浮かべる様子のほか、彼女が、混乱した同居人夫婦の妻ローズをたしなめる様や、食卓で執筆に口を出す抑圧的なハイマン、大学の職を得て新しい街に引っ越してきたばかりのフレッド&ローズ夫妻の希望に満ちた姿を捉えたものなど、いずれもジャクスンの小説や本作の雰囲気を体現するように、幻想と現実が入り乱れたカットとなっている。
いま最も注目を集める映画監督が実在の作家の半生に迫る本作。幻想的な世界観をぜひ映画館で体感してほしい。
文/スズキヒロシ