「観客が翌朝も頭を抱えていてほしい」…北欧ホラー『胸騒ぎ』監督が明かす、“悪夢的世界”の裏側
「『胸騒ぎ』を観てくれた皆さんが、翌日も頭を抱えてくれたらうれしい」
――本作を観て、1990年代のトッド・ソロンズ監督やリューベン・オストルンド監督の映画がお好きなんじゃないかと思ったのですがいかがですか?
「オストルンドにソロンズ?大当りです!特にソロンズの『ハピネス』が気に入っています。とある学校でレクチャーをした時に教材で使ったのですが、学生が何人も退出してしまって。確かに挑発的な作品で、起こる出来事は冷酷だけど、しっかり観れば、普通の人々に対する普通の出来事を描いた愛のある肖像、とでも言うべきものであることに気がつく。20年前の映画ですが、最近の若い子は行間が読めないのかな?とショックでした。
もちろんオストルンドも大好きです。同じスカンジナビア人として共感できる部分が沢山あります。スカンジナビア人はやたら“礼儀”を重んじるんだけど、その“礼儀”のなかに皮肉や悪意が潜んでいるのでは?といった疑問を描いたり、社会風刺を本筋に据えたりというのが、私と共通しているところです。とはいっても、私は私のオリジナリティをはっきり打ち出していきたいと考えて『胸騒ぎ』を作りました(笑)」
――さて、最後に“胸糞映画”として日本のホラーファンにも浸透してきている本作を鑑賞する観客に、メッセージをお願いします。
「心乱されることは、とても価値がある体験です!映画を見終わったあとに、反芻して誰かと議論するのはすばらしいこと。『胸騒ぎ』は“生きる”ことについて大事なテーマを扱っています。最近は所謂“Crowd Pleaser Movie”(観客を喜ばせるために作られた映画)が多いような気がしています。だから私はカウンターとして『胸騒ぎ』を製作しました。心を根っこから揺り動かされ、感じることは生きていくうえで大事なことです。だから、『胸騒ぎ』を観てくれた皆さんが翌日、朝起きた時も頭を抱えてくれていたら、うれしいですね」
取材・文/氏家譲寿(ナマニク)