「リアリティがすごすぎて、簡単にはおすすめできない」放送作家・鈴木おさむが『ミッシング』に見る“テレビの魔力”
「気軽に『観たほうがいい』とは言えないほど、すごい映画」
鈴木自身が“感情移入”したキャラクターを問われると、青木崇高演じる父親の目線で物語を追ったという。「最近だと『ゴジラ-1.0』や『犯罪都市 NO WAY OUT』でもすごくいい芝居で、どんどんいい役者になっていますよね。妻が感情的になっている状況で、夫がいかに気持ちを乱さずにいなきゃいけないか、というリアリティを感じさせました。レストランで娘の捜索活動について沙織里と口論になった時、『俺だってやってるよ!』と気持ちを爆発させる瞬間もあったけれど、一歩引いて我慢しなきゃいけないという父親のつらさが伝わってきました。ラストの泣きのシーンはめちゃくちゃよかったです」。
吉田監督作品では一番のお気に入りとなり、すばらしい映画だと大絶賛の鈴木だが、簡単には人におすすめできないとも話す。「リアルな意見を言うと、妻にすすめられるかと言ったら、ちょっと考えてしまいます。母親として観てつらくなるのもわかるから、気軽に『観たほうがいいよ』とは正直言いにくい。すばらしい映画であることは間違いないけれど、覚悟を持って観なきゃいけないし、観たら絶対しんどくなると思うので。子を持つ親として、リアリティがすごすぎるから、すすめる相手を選ぶ気はします。中途半端な気持ちではおすすめできない、そのくらいすごい映画を観たなって思っています」。
物語の終わらせ方にも吉田監督のこだわりが詰まっている。この結末を鈴木はどのように受け止めたのか。「塞ぎ込んでコミュニケーションができなくなってしまった主人公と、弟も含めた家族関係というのがあって。でもこの状況を背負いながら生きようという感じの一歩なんじゃないかなと思いました。前を向いていると感じられた結末でした」。
取材・文/タナカシノブ
※吉田恵輔監督の「吉」は「つちよし」が正式表記
19歳の時に放送作家になり、それから32年間、様々なコンテンツを生みだす。現在は、「スタートアップファクトリー」を立ち上げ、スタートアップ企業の若者たちの応援を始める。コンサル、講演なども行う。