歴史的な名盤はいかにして生まれたのか?『ボブ・マーリー:ONE LOVE』の中軸「エクソダス」の偉業に迫る
ラスタファリアニズムの追求とパンクロックへの共感
こうした強力なバンドを従えた「エクソダス」のサウンドは、アナログ盤のA面とB面でムードが大きく異なっている。前半は、マーリーのラスタファリアニズム思想が全面に打ち出されたいわばハードコア・サイド。ラスタファリアニズムとは、資本主義(「バビロン」と呼ぶ)に汚染されたジャマイカをアフリカ回帰させることを目指した宗教的社会運動だが、本作でのマーリーはこうした呼びかけを、ほかならぬバビロンそのもののロンドンで行ったわけだ。
しかしマーリーはこうした行為に手応えを感じていたはず。当時のロンドンではパンクロック人気が台頭しつつあり、マーリーは「白人もバビロンと戦い始めた」と感じていたからだ。こうしたパンクスへの共感は、ダムドやザ・ジャム、ザ・クラッシュ、ドクター・フィールグッドを歌詞に歌い込んだアルバム未収録曲「パンキー・レゲエ・パーティー」(デラックス版等に収録)に結実している。
人類愛サイドという印象を与える「エクソダス」のB面
そんなA面に対してB面は、メロウでメロディアスな曲が並んだいわば人類愛サイド。スティーヴィー・ワンダー「マスター・ブラスター」にも影響を与えた「ジャミング」で始まり、「ウェイティング・イン・ヴェインン」「スリー・リトル・バーズ」といったR&B的なラブソングが続き、ウェイラーズに天啓を与えたインプレッションズの代表曲を本歌取りした「ワン・ラヴ/ピープル・ゲット・レディ」で幕を閉じる流れが見事だ。
時代を超えて輝きを増す歴史的な名盤「エクソダス」
「エクソダス」はビルボード200で最高20位、ブラック・アルバム・チャートで最高15位を記録したほか、英国チャートでは最高8位を記録した。このアルバムによって、ボブ・マーリーはレゲエを超えて、唯一無二のアイコンになったのである。
本作への評価は時代を経るごとに衰えるどころか、輝きを増しており、タイム誌は1999年に「20世紀最高の音楽アルバム」に、VH1は2001年に「史上最も素晴らしいアルバム」の26位に、 ローリングストーン誌は2020年版「オールタイム・ベストアルバム500」の71位に「エクソダス」を選出している。資本主義社会に戦いを挑み、愛を歌うマーリーのメッセージに、時代を超えた普遍性があるなによりの証だろう。
文/長谷川町蔵