あの名シーンは当初の脚本になかった!? ジギー・マーリー&キングズリー・ベン=アディルが明かす『ボブ・マーリー:ONE LOVE』製作秘話 - 2ページ目|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
あの名シーンは当初の脚本になかった!? ジギー・マーリー&キングズリー・ベン=アディルが明かす『ボブ・マーリー:ONE LOVE』製作秘話

インタビュー

あの名シーンは当初の脚本になかった!? ジギー・マーリー&キングズリー・ベン=アディルが明かす『ボブ・マーリー:ONE LOVE』製作秘話

「脚本にはなかった口論のシーンは何か月もかけて、ジギーと語り合いました」(キングズリー・ベン=アディル)

【写真を見る】互いへの信頼を語ったジギー・マーリーとキングズリー・ベン=アディル
【写真を見る】互いへの信頼を語ったジギー・マーリーとキングズリー・ベン=アディル撮影/植村忠透

映画は1976年から1978年にかけてのボブの生をたどるもの。冒頭、ボブが子どもたちと一緒にサッカーをしている際に銃声が響き、彼はジギーら息子たちを避難させる。当時のジャマイカは政治的内紛が深刻化しており、緊張に包まれていたのだ。「大人の目から見れば、それはかなり危険な状況だったでしょう。ただ、当時の私は8歳だったから、危険であるとは認識していませんでしたし、そういう状況に置かれていることにも抵抗はなかった。確かに、子どもがいるべき環境ではなかったかもしれません。しかし、父はそのような状況から、私に学んでほしかったのでしょう。まあ、子どもにしたら大冒険ですね(笑)」。ベン=アディルは、こう付け加えた「それを知ると、ボブ・マーリーという人物がさらによく理解できるんです」。

程なくして、コンサートに出演するためにリハーサルを行なっていたボブ・マーリーはスタジオで銃撃される。民衆に対して政治的な影響力を持つ彼の存在を疎ましく思う人間が、当時のジャマイカには存在していたのだ。ジギーは語る。「おそらく、当時の父は自分が撃たれるとは思っていなかったのでしょう。私もそうでした」。ベン=アディルがフォローする。「ボブは“皆、仲間だから”という姿勢を持っていて、映画はそこからスタートするんです」。この時、ボブの平和主義は過酷な現実に打ち砕かれるのだ。

9カ月間ギターと歌を特訓して撮影に臨んだキングズリー・ベン=アディル
9カ月間ギターと歌を特訓して撮影に臨んだキングズリー・ベン=アディル撮影/植村忠透

銃弾を受けるも一命をとりとめたボブ・マーリーはコンサートをやり遂げた直後、命の危険を察してロンドンへと渡り、ジャマイカを約1年半、離れる。そこには、祖国の混乱をもはや楽観視できないいらだちもあったのだろう。彼のバンド、ザ・ウェイラーズのメンバーでもあった妻リタも、遅れて到着し、ボブの新天地での音楽活動をサポートする。つまり、当時8歳のジギーは長きにわたり、両親と離れて暮らすことになったのだ。「もともと両親は音楽活動に忙しく、私は大叔母や親戚と暮らしているのが当たり前だったので、感傷的にはなりませんでした。映画の中で、父がジャマイカに戻ってきた時、空港で群衆に揉みくちゃにされながら車に乗り込み、私もスタッフにそこに押し込められる場面がありますが、あれは事実です。久しぶりに会ったのに、感動の再会とは程遠い状況でした(笑)」。

ロンドンでレコーディングした名盤「エクソダス」は世界的なヒット作となり、ヨーロッパツアーも好評。しかし成功のなかで人間関係が軋みだし、ボブと妻リタの関係も悪化。ツアー中のパリでの口論は、この映画でボブの人間的な弱さが出てしまうシーンだろう。「口論のシーンについては、もともとの脚本にはなかった。ジギーが考えて、つくり出した場面です。ご両親の口論の流れをよく理解していたので、この場面については何か月もかけて、彼と語り合いました」とベン=アディルは語る。

悩みながらも夫ボブを支える妻のリタ
悩みながらも夫ボブを支える妻のリタ[c]2024 PARAMOUNT PICTURES

世界中の紛争が絶えない世の中に、一つの愛=“ワン・ラヴ”で人々は結ばれるべきである、というテーマを持った本作はタイムリーでもある。「この映画がヒットしていることはうれしいし、そこには“愛”というテーマが関係していると思います」とベン=アディルは言う。またジギーは「アートを発表した時、往々にして世の中では予想していないことが同時発生的に起こります。映画を作っている時には、公開時にこんな世の中になっているとは思っていませんでした。我々はなにかに導かれて、この映画をつくり、一方では我々の見えない力によっていまの世の中がこうなった。我々がやっていることは、ひょっとしたら我々が思っている以上に重要なことかもしれません」と語った。本作が混沌の現代に、どんな音を打ち鳴らしているのか?まずは、体感してみほしい。

取材・文/相馬学

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