名作『美しき仕事』が4Kレストア版で日本初公開!クレール・ドゥニが“友人”たちと描き続けるダンス

コラム

名作『美しき仕事』が4Kレストア版で日本初公開!クレール・ドゥニが“友人”たちと描き続けるダンス

レオス・カラックスをはじめとする映画作家やスタッフら“友人”たちとのコラボレーション

長編デビュー作『ショコラ』(88)を撮るまでの間、クレール・ドゥニは多くの映画作家の撮影にアシスタントやエキストラとして関わっている。自身の憧れだというジャック・リヴェットをはじめ、ドゥシャン・マカヴェイエフ、ロベール・ブレッソン、ジム・ジャームッシュ。そのなかでもヴィム・ヴェンダースと共に『パリ、テキサス』(84)のロケハンでアメリカを旅したことが、クレール・ドゥニの映画作家としての指標を決めていく。自分にとっての風景はどこにあるのか?そう自問したクレール・ドゥニは、幼少期に育ったカメルーンで長編デビュー作であり準自伝的な作品『ショコラ』を撮ることになる。そして『ショコラ』にはレオス・カラックスの長編デビュー作『ボーイ・ミーツ・ガール』(84)に主演していたミレーユ・ペリエがクレール・ドゥニの分身ともいえる“フランス”という役で出演している(ちなみにクレール・ドゥニは『ホワイト・マテリアル』でイザベル・ユペールが演じたマリアを自身に一番近いキャラクターだと語っている)。

クレール・ドゥニが幼少期の体験を色濃く反映した長編デビュー作『ショコラ』
クレール・ドゥニが幼少期の体験を色濃く反映した長編デビュー作『ショコラ』[c]Everett Collection / AFLO

クレール・ドゥニとレオス・カラックスは友人関係であるだけでなく、『美しき仕事』のドニ・ラヴァンをはじめ、キャストやスタッフの点で大きく重なっている。クレール・ドゥニの多くの映画で編集を担うネリー・ケティエは、レオス・カラックスのすべての長編作品の編集を務めている(レオス・カラックスはネリー・ケティエのことを「編集のすべてを教わった」と感謝を述べている)。ネリー・ケティエによると、『美しき仕事』は『ポーラX』(99)と同時進行で編集作業が行われていたという。また『ポーラX』のイザベル役で圧倒的な存在感を放つカテリーナ・ゴルベワに先駆け、クレール・ドゥニは『パリ、18区、夜。』で彼女を起用。『ポーラⅩ』の撮影で落ち込んでいたカテリーナ・ゴルベワをクレール・ドゥニが励ましていたエピソードも残されている。そして心臓移植をテーマにしたクレール・ドゥニの異形の傑作『侵入者』(04)は、『ポーラX』以後のカテリーナ・ゴルベワの代表作といえる。

ロバート・パティンソンを主演に迎えた『ハイ・ライフ』
ロバート・パティンソンを主演に迎えた『ハイ・ライフ』[c]Everett Collection / AFLO

以前筆者がインタビューした時、クレール・ドゥニは“友人と映画を撮る”ことを特別に強調していた。「国境を越えた映画作家たちとの関係や自分の映画に出演するすべてのキャストは友人なのだ」と。実際、クレール・ドゥニはグレゴワール・コランや撮影監督のアニエス・ゴダール、音楽のティンダースティックスを筆頭に、同じキャスト・スタッフと何度もコラボレーションをしている。そこにはクレール・ドゥニの“ユニバース”ともいえる、大きなサークルが形成されている。フランス映画という枠には到底収まらないクレール・ドゥニの映画は、初めから真にコスモポリタンな映画だったのだ。その意味で宇宙船を舞台にした初の全編英語のSF作品『ハイ・ライフ』(18)は、クレール・ドゥニのフィルモグラフィーにおいて撮られるべくして撮られた傑作といえる。

トリュフォーやゴダールの作品にも出演したミシェル・シュボール
トリュフォーやゴダールの作品にも出演したミシェル・シュボール[c]LA SEPT ARTE – TANAIS COM – SM FILMS – 1998

同じキャストとのコラボレーションでいえば、『美しき仕事』のインスピレーションの源となったジャン=リュック・ゴダール『小さな兵隊』(60)のミシェル・シュボールは、クレール・ドゥニの映画にとって欠かせない存在だ。『美しき仕事』の上官フォレスティエという役名は、『小さな兵隊』でミシェル・シュボール自身が演じた役名と一致している。クレール・ドゥニは『美しき仕事』から『侵入者』、『バスターズ』(13)に至るまで、ミシェル・シュボールの肌を徹底的に、彼の肌を愛するように撮っていた。


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