黒澤明にゴーゴー夕張…日本スタイルからも影響を受ける「スター・ウォーズ:アコライト」のアクションがすごい!
『スター・ウォーズ/ファントム・メナス(エピソード1)』の約100年前、銀河に数多くのジェダイが存在していた“光”の時代に、突如現れた“闇”の存在シス。これまでの「スター・ウォーズ」シリーズでは描かれることがなかったフォースのダークサイドの視点から描くドラマシリーズ「スター・ウォーズ:アコライト」がディズニープラスにて好評配信中。
「アコライト」は物語面の様々な新しさもさることながら、アクション面においてもシリーズとしては大きな進化を遂げ、かつてない表現が散りばめられたフォースを用いたアクションは大きな見所となっている。今回は、斬新さが光るアクション描写の視点から「アコライト」の初回&第2話のエピソードの見所を掘り下げていきたい。
時代と共に進化し続ける「スター・ウォーズ」アクション
脚本・監督を務めるレスリー・ヘッドランドがインタビューで語った「マーシャルアーツの作品を撮ることに興味がありました」という言葉のとおり、「アコライト」はこれまでのシリーズの主流であったライトセイバーを用いたソードアクションが主体だった戦いを、マーシャルアーツ=東洋の格闘技である武道や武術を取り入れることで見せ方を大きく変化させている。
日本のサムライ映画からの影響が感じられる「スター・ウォーズ」のジェダイの語源は、「時代劇」から来ているという説もあるほどで、ジェダイとシスの激突は、時代劇における剣戟アクションが原点。ライトセイバーの刃を切り結ぶ戦いが基本となっていた。しかし、シリーズ作品が多数派生しているなか、時代の進化と共にフォースを用いることで攻撃の見せ方も大きく変わっていった。
ブラスターの光弾を弾く防御と攻撃の一体化させた特徴的なスタイルの目新しさに始まり、フォースの力を使った跳躍からの攻撃や投てきしたライトセイバーを操るなど、フォースを用いた攻防の動きは、様々なアイデアが盛り込まれることでアクションとしての可能性が大きく拡大していった。近年の「オビ=ワン・ケノービ」「スター・ウォーズ:アソーカ」などのドラマシリーズにおけるライトセイバーを使った剣戟アクションの見せ方は、これまでの積み重ねを踏まえてダイナミックさやケレン味なども含めてひとつの高みに達したようにも見える。
メイのアクションは栗山千明が演じた“ゴーゴー夕張”が参考に?
そんな流れのなか、「アコライト」ではライトセイバーを使わないフォースの使い手たちの戦い方を、マーシャルアーツを取り入れることで表現している。剣戟ではない、より近接戦闘でのフォースを使ったアクション。これは、いままであるようでなかった試みだ。
物語の冒頭となる第1話では、アマンドラ・ステンバーグ演じるメイとキャリー=アン・モス演じるジェダイ・マスターのインダーラによる対決が描かれる。謎多きメイが使う武器は、手の平に収まる程度の大きさの、ナイフのように攻撃や防御に用いることができ、さらに投てきが可能なクナイ。彼女は、顔を覆面で隠し、高い身体能力を駆使して、縦横無尽な打撃や蹴りを交えた格闘術で戦う姿はまさに“忍者”そのもの。ジェダイがフォースを用いる「侍」ならば、フォースを使う「忍者」がいてもおかしくないという発想だろう。一方、変幻自在なメイの忍者のような攻撃に対して、インダーラも当初ライトセイバーは抜かず、フォースを交えた体術で応戦。最小限の動きで見事にメイの攻撃をさばくアクションは、我々が見慣れたカンフーの動きそのものだ。
インタビューによると、ステンバーグのアクションの参考にしたのは、クエンティン・タランティーノ監督の『キル・ビル』(03)に登場した栗山千明演じるゴーゴー夕張。制服姿の女子高生が、長い鎖のついた棘付きの鉄球を振り回すインパクトに加え、特殊な形状の鎖でつながれた武器を自在に操る姿は往年の日本の忍者映画に登場する鎖鎌使いを彷彿とさせた。新旧の和風のスタイルをハリウッドアクションに昇華した好例が、ゴーゴー夕張というキャラクターとアクションシーンに盛り込まれていた。
一方、「マトリックス」シリーズでヒロインのトリニティを演じてきたモスは、キアヌ・リーブスと共に数々のアクションシーンを経験しておきており、彼女自身も「アクションはキアヌ・リーブス譲り」だとインタビューにて答えている。そうした発言を踏まえて見ると、モスの動きは「マトリックス」でキアヌが見せたカンフーアクションを彷彿とさせるものとなっている。
正統派時代劇とは異なるサブカル的な日本のアクション映画を好むタランティーノと、ある意味マンガやアニメを彷彿とさせるスタイルを交えたカンフー映画的な表現を好むウォシャウスキー姉妹。一見共通しながらも異なる日本のアクション作品の表現手法が、「スター・ウォーズ」シリーズで融合するという奇跡が「アコライト」には詰まっていると言える。
メイとインダーラの対決シーンの注目ポイントはこれだけではない。2人のバトルでは、香港カンフー映画的な周辺環境を利用したアクションや、フォースを用いたパルクール風アクション表現も取り入れられている。蹴りや突きといった生身の体術を駆使するメイは、攻撃時にフォースを利用して打撃を増幅させるような攻撃パターンを取り入れている。周辺の物体を投げつける、相手の動きを止めるといったフォースの使われ方は、いままでも表現されてきたが、フォースの使い手による武器を持たない近接戦闘シーンというのはこれまでほぼ描かれてこなかった。マーシャルアーツやカンフー的な動きにフォースを組み合わせるというアイデアは、今後のフォースを用いたアクションの表現や可能性を拡大させるきっかけになるだろう。