「やったことのないことにチャレンジした」黒沢清監督&柴咲コウが語った『蛇の道』での新たな挑戦

インタビュー

「やったことのないことにチャレンジした」黒沢清監督&柴咲コウが語った『蛇の道』での新たな挑戦

「最初から“こうする”と決めて、ほくそ笑んでいる彼女を楽しみながら演じました」(柴咲)

――アルベールの娘の殺害に関与した、財団の関係者たちを監禁する隠れ家での小夜子の言動もクールで怖かったです。

柴咲「私も同じタイプですけど、小夜子はウロウロしないし、やるべきことを計画的にこなして、あとは新聞を読んでいる(笑)。壁に新しい鎖と拘束器具を溶接するのを、彼女が自分で淡々とやるのもおもしろいと思いました」

黒沢「アルベールは拳銃をバンバン撃つけれど、彼女はほとんど撃たない。人にさりげなく渡したり、置くのが彼女のやり口で。鎖に繋がれた財団関係者2人の前に拳銃をポンと置いて去っていくところなんて、本当に憎たらしいなあと思いましたね(笑)」

柴咲「すぐ感情的になるアルベールと違って、小夜子は衝動で動くことはない。最初から“こうする”と決めていて、ほくそ笑んでいる彼女を楽しみながら演じました(笑)」

柴咲を「野獣のような身のこなし」と評した黒沢監督の真意とは
柴咲を「野獣のような身のこなし」と評した黒沢監督の真意とは撮影/宮崎健太郎

――あの隠れ家の一連のシーンではオリジナル版と同じ黒沢作品ならではの不穏な空気感も印象的でしたが、現場でなにか感じるものはありましたか?

柴咲「あの隠れ家では機械的な描写もちりばめられていて、生身の人間とその機械的なものとの構図やバランスが絶妙なんです。引きの画が続くところがあるんですけど、そこではピチョンと跳ねる水の音も硬くて機械的なものに感じられる。そこをさまざまな思いを抱えた人たちが歩くと、生々しさと硬さが相まった独特な空気が生まれるのがおもしろいなと思いました」

――監督は公式コメントで柴咲さんのことを「野獣のような身のこなし」と評されてましたが、なにを見てそう思われたのですか?

黒沢「柴咲さんがアクションをどこまでできるのか正直分からなかったんですけど、やってみたらスゴくて。相手を押さえ込んだり、物を投げる動きが動物のように俊敏で、『荒々しく』と言わなくても獰猛な感じがする。それこそ、車に乗ってから発車させるまでの速さは映画史上最速ですよ(笑)」

柴咲「ちゃんとシートベルトもしてますからね(笑)」

黒沢「みなさん、何気なく見ると思いますけど、シートベルトを締めてからエンジンをかけ、ギアを 入れて出発するのって、誰がやっても時間がかかるんです。だからハリウッド映画でも編集で大抵ごまかしているんですけど、柴咲さんはめっちゃ速いから、車に乗ってから出発するまでをワンカットで撮ることができたんです(笑)」

柴咲「私は普段からほかの人の1.3倍のスピードで生きているんですよね。運転も好きだし、そのせっかちな性格がこの作品では功を奏したのかもしれないです(笑)」


「完全に本物の人間が入らなきゃダメだというムードになっていた」(黒沢)

――これもオリジナル版と同じシチュエーションですが、ポスターにもなっている人の入った袋を引きずりながら草原を走って逃げるシーンの撮影はいかがでした?

黒沢「あれは大変でした」

柴咲「腕が千切れるかと思いました(笑)。それぐらい重かったんです」

黒沢「俳優ではなくて、少し軽めのスタントの方でしたが、本当に入っていたので引きずるのは大変だったと思います」

実は本当に人が入っていた⁉
実は本当に人が入っていた⁉[c] 2024 CINÉFRANCE STUDIOS – KADOKAWA CORPORATION – TARANTULA

柴咲「しかも、けっこう長い距離を運ばなければいけなくて。走りながら、『まだ行くの?まだカットがかからないの?って思っていました(笑)」

黒沢「いやいや、僕ももちろん重いでしょうから、人が実際に入らなくてもいいように『比較的軽い人形を用意しています』って言ったんですよ。でも、現場が完全に本物の人間が入らなきゃダメだというムードになっていたし、柴咲さんもダミアンも『やります』って言ってくれたので、お願いして。大変だったと思いますけど、そのおかげで、あの必死さとリアルな形相を撮ることができました」

柴咲「今回は天気も味方をしてくれたと思います。私がプライベートや別のお仕事でパリに行く時はいつも晴れるんですよ。でも、この映画を撮っている時はいつも黒沢仕様の天気で、敢えてグレーと言うか、いつも曇天で(笑)。あれが晴天だったら、あんなアンニュイな雰囲気にならなかったと思うし、冒頭のシーンも1回ザ~っと降った雨が1回ピタッと止まった時に撮ったんですけど、そこも太陽がちょうど雲にかかって、建物や地面が少し暗いいい色合いになっているんですよね。あのバランスは絶妙だと思いました」

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