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「やったことのないことにチャレンジした」黒沢清監督&柴咲コウが語った『蛇の道』での新たな挑戦

インタビュー

「やったことのないことにチャレンジした」黒沢清監督&柴咲コウが語った『蛇の道』での新たな挑戦

「小夜子でなければ日本人らしさがもっと出ていたかもしれない」(柴咲)

――柴咲さん以外の日本人の出演者は、小夜子の患者・吉村役の西島秀俊さんと夫の宗一郎を演じた青木崇高さんだけですが、2人のシーンもパリで撮ったんでしょうか?

黒沢「もちろんです。西島さんは以前からのつきあいで『スケジュールが空いていれば出ますよ』って言ってくれていたんですけど、その時にたまたま空いていたと言うか、空けてくれて。1日だけだったんですけど、パリの病院で撮影しました」

柴咲「お2人とのシーンは数少ない日本語でお芝居をするシーンでしたが、そこで小夜子の考えていることが出過ぎてしまってはいけないので、そのバランスが難しかったですね。ただ、西島さん演じる吉村とのシーンは小夜子のキャラクターが浮き彫りになる象徴的なシーンでもあって。吉村は周りのすべての人間が敵に見えて疑心暗鬼になっているんですけど、小夜子は医者なので、対象的に白衣を着て優しく冷静に対処していきます。そんな相容れないものを纏った2人だなと思いながら、演じていたような気がします」

吉村とのシーンで小夜子のキャラクターが浮き彫りに…
吉村とのシーンで小夜子のキャラクターが浮き彫りに…[c] 2024 CINÉFRANCE STUDIOS – KADOKAWA CORPORATION – TARANTULA

黒沢「一方の宗一郎のほうは、僕は最初から青木さんをイメージしていたんですけど、予算の都合で一度は諦めざるを得なくて。仕方なくロンドンに住む日本人の俳優にお願いすることになったんですが、その人がクランクイン直前に日本に帰ってしまったんです。その時にフランス側のプロデューサーが『彼を東京から呼び戻す』って言うから、『ちょっと待ってください。それなら青木さんに来てもらってもいいじゃないですか』と僕が訴えたんです。そしたら、青木さんのスケジュールがたまたま空いていて、身軽な彼が撮影の数日前に東京からひょいっとやってきてくれたので、本当に助かりました」

柴咲「宗一郎とのシーンは劇中ではPCの画面越しのお芝居でしたけど、実際の青木さんはフランスの小夜子のアパートメントの隣の部屋で撮影に臨んでくれたので、東京にいる人とお芝居をするのとは違う安心感がありました。たった1日だけの対峙で、私たちは10年ぐらい一緒に暮らしていた夫婦の雰囲気を作りださなきゃいけなかったわけですけど、青木さんはその距離感を掴み取るのがお上手で。そこに私も小夜子も乗っからせてもらう感じでしたね(笑)」

小夜子とPCの画面越しに話す宗一郎
小夜子とPCの画面越しに話す宗一郎[c] 2024 CINÉFRANCE STUDIOS – KADOKAWA CORPORATION – TARANTULA

「日本の俳優ってスゴい!フランス人俳優だとなかなかああはいかない」(黒沢)

――黒沢監督は公式のコメントで本作はご自身の「最高傑作」と言われていますが、あの言葉はどんな思いから出てきたものだったのでしょう?

黒沢「これまでやったことのないことにいろいろチャレンジし、仕上げも含めてそれを上手く乗り越えられたことが大きいですね。それに、これは本当のことですが、フランス人のスタッフがみんな柴咲さんや西島さん、青木さんのお芝居を見て『日本の俳優ってスゴい! みなさん、お芝居が本当に安定していて、テイクを重ねても同じようにできる。現場の雰囲気にたった1日で溶け込めるのにも驚いた。フランス人の俳優だと、なかなかああはいかないよ』って心から称賛していて。日本の俳優のレベルの高さを証明できたのも、今回の現場のうれしい出来事だったんです」


――柴咲さんもパリでフランス人の俳優やスタッフと初めてお仕事をされて、これまでとは違う刺激や新たな気づきを得たと思うのですが、いかがですか?

柴咲「国民性や国ごとの習慣の違いは身体に表れると思います。それこそ、日本人は“共感”を大事にするから、頷く動きが多くなりがちだけれど、アルベールと対峙している時の小夜子はそういったものを排除していましたからね。彼女だったからフランス人との違いがあまり大きく出なかったような気もするし、なにを考えているのか分からないミステリアスな印象も強くなったんじゃないかな。小夜子じゃなければ、異国にいる日本人らしさがもっと出ていたのかもしれないなと、演じ終えたいまは思っているところです」

取材・文/イソガイマサト

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