テニスのルールやシステム、背景を知っているとより深まる?テニス映画としての『チャレンジャーズ』のおもしろさ

コラム

テニスのルールやシステム、背景を知っているとより深まる?テニス映画としての『チャレンジャーズ』のおもしろさ

コントロール重視のオールラウンドプレーヤー、アート・ドナルドソン

最後に、劇中で確認できる情報からアートとパトリックのテニスプレーヤーとしてのキャラクターを考察してみたい。プレー中のアートを見て、日本の観客は彼がユニクロのウェアを着ていることに注目するはず。パラリンピックで計4個の金メダルを獲得、生涯ゴールデンスラムも達成した車いすテニスのレジェンド、国枝慎吾とスポンサー契約を結んだことに始まり、錦織圭、ジョコビッチ、フェデラーといった名選手がユニクロのウェアを着用してきた。アートもまた、彼らと並ぶほどのスター選手であると言えるだろう。

使用しているラケットはウイルソン社の「ブレード」シリーズ。スイングした際のしなりやクリアな打感が特徴で、おもにコントロールを重視するプレーヤーのラケットとされている。劇中でも、ベースラインからのハードヒットで攻めつつ、チャンスを見つけてネットに詰めるオールラウンドなプレーをしていた。ただ、ジュニア時代はバボラ社の「ピュアドライブ」シリーズを使用していた模様。こちらはパワーアシストに特化した強打者のラケットであり、タシの助言があったのか(選手時代のタシが使用していたのもウイルソンのラケットだった)、メーカーだけでなく求める性能の変化も気になるところだ。

また、バックハンドは近年減少傾向にある片手打ち(シングルバックハンド)で、スライス(逆回転)でラリーのリズムに変化を加えたり、ドロップショットでネット際にボールを落としたりする技巧派な印象も受ける。シングルバックハンドは両手打ち(ダブルバックハンド)に比べて習得が難しいと言われているが、アートを演じるマイク・フェイストのフォームに違和感はなかった。

タシとアートは大学テニスの道に進んでいた
タシとアートは大学テニスの道に進んでいた[c]2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved. [c]2024 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. All Rights Reserved.

個性派テニスを貫くパトリック・ズワイグ

一方、パトリックが使用しているラケットはヘッド社の「ラジカル」シリーズ。アメリカの名選手、アンドレ・アガシも使用したシリーズの後継機で、性能をあえて説明するなら万能型。ボールを飛ばす反発力、回転をかけるスピン、コントロールも高いレベルでカバーしてくれる。しっかり回転をかけながら強打したいプレーヤーに合うラケットと言え、劇中でのパトリックのプレーにもそれが見てとれる。

パトリックのプレーで最も特徴的なのは、劇中でも重要なフックとなるサービスのフォーム。基本的に運動連鎖のなかでボールを打つことで、より大きなパワーを生みだすことができるとされている。そのため、アートのように体の正面で構えたラケットを振り子のように後ろへ回し、肩の辺りで担ぐようにラケットを立てた状態でセット。それと同時に、弓の弦を張るように体を反らせ、トスしたボールを体の反動を使って打ちに行くフォームが主流となっている。

しかしパトリックの場合、いきなりラケットを担いでセットするところからスタートし、運動連鎖を使わずにトスしたボールを打ちに行くスタイルになっている。たしかに、一般レベルであれば複雑な動きになるとミスしやすくなるため、パトリックのようにシンプルなフォームでサービスを打つほうがより再現性は高くなるだろう。とはいえ、プロではあまり見ない打ち方なので、我流でツアーを回ってきた彼らしいフォームと言えるかもしれない。

【写真を見る】ゼンデイヤ主演で男女3人のプロテニスプレーヤーの愛憎を描く
【写真を見る】ゼンデイヤ主演で男女3人のプロテニスプレーヤーの愛憎を描く[c]2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved. [c]2024 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. All Rights Reserved.

今年も7月1日(月)からウィンブルドン、8月26日(月)からは全米オープン、日本でも木下グループジャパンオープンテニスチャンピオンシップス2024が9月25日(水)から東京の有明で開催される。『チャレンジャーズ』を機にテニス観戦をしてみてはいかがだろうか?

文/平尾嘉浩

関連作品