テニスのルールやシステム、背景を知っているとより深まる?テニス映画としての『チャレンジャーズ』のおもしろさ
コートサーフェスによるプレースタイルの変化
テニスのおもしろさであり過酷さでもあるのが、コートサーフェスの変化に適応しなければならないこと。グランドスラムを軸にすると、年始はハードコート(アスファルトなど硬めの素材の上にゴム、アクリルでコーティングしたもの)の全豪オープンからスタートし、初夏に行われる全仏はクレーコート、ウィンブルドンは天然芝、そして真夏の全米はハードコートとなっている。
土のクレーコートではボールは高くバウンドする傾向にあり、球足は遅くなる。必然的にラリーが長くなるため、ストロークを得意とするプレーヤーが実力を発揮しやすい。逆に芝のコートではバウンドは滑るように低く、球足も速くなるため、サービスや強打が武器の攻撃的な選手に有利。現在、全仏とウィンブルドンの間には3週間ほどしかなく、選手たちは短い期間で真逆のサーフェスでのプレーに対応しなければならないのだ。
引退間近のベテラン選手が最後の大舞台に臨む『ウィンブルドン』
こうしたテニスに関する基本情報を頭に入れておくと、テニスを題材にした映画の見方も深まってくる。例えば、ポール・ベタニー&キルスティン・ダンスト共演の『ウィンブルドン』(04)。ベタニー演じるイギリス人テニス選手のピーター・コルトはかつて世界ランキング11位を記録するほどの選手だったが、年齢的な衰えもあり119位まで後退している。ワイルドカード(主催者推薦枠)をもらったウィンブルドンでの引退を決めていたが、ダンスト演じる女子の優勝候補、リジー・ブラッドベリー(時期的にシャラポワがモデル!?)と出会ったことで予想外の活躍を見せていく。
冒頭、クレーコートの大会で若手選手にボコボコにされるピーターだが、ウィンブルドン1回戦では別の若手選手になんとか勝利。さらに2回戦では、全仏オープン優勝者相手に敗退しそうになるも奮起してフルセットで破っている。映画的な演出と捉えるのが普通だが、芝のコートを不得意とするクレーコートのスペシャリストは少なくなく、全仏2連覇を達成したセルジ・ブルゲラ(スペイン)、世界ランキング1位経験者のトーマス・ムスター(オーストリア)もウィンブルドンを苦手にしていた。引退間近とはいえ、勢いに乗ったピーターが格上の全仏チャンピオンに勝利したとしても不思議なことではないのだ。
テニス史に残る世紀の名勝負を映像化した『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』
コートサーフェスによるプレーの違いを説明したが、選手それぞれの個性もテニスの魅力。テニスには、サービスを打った勢いでネットに詰めてボレーで勝負するクラシックなサーブ&ボレーヤー、サービスエースを量産するビッグサーバー、ベースラインでの打ち合いでチャンスをねらうストローカーなど様々なプレースタイル、戦術がある。異なるスタイルの選手がぶつかり合い、ライバルとなって数々の名勝負を繰り広げることもあり、それを映画化したのが『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』(17)だ。主人公はテニスの黄金時代を築いたビヨン・ボルグ(スウェーデン)とジョン・マッケンロー(アメリア)で、2人が対決した1980年のウィンブルドン決勝戦を映像化している。
ボルグはストロークを主軸としたプレースタイル。しかも、当時としては珍しいトップスピンをかけてネットの高い位置を通し、相手コートの後方をねらう正確無比なストロークでじわじわとプレッシャーをかけていく。対するマッケンローは、左利きから繰りだす独特のキレ味鋭いサービスでネットに詰め、天性の手首(リスト)の柔らかさで自在に相手のいないところへボールを落とす天才的なサーブ&ボレーヤー。また、冷静沈着で紳士的なボルグに対し、マッケンローは感情表現豊かで怒りのままに審判にも噛みついてしまうなどキャラクターも正反対だった。両者は映画の翌年、1981年の同大会決勝でも対戦し、今度はマッケンローが勝利。83年にはボルグが26歳の若さで引退したため、2人が直接対決した期間は短いが、テニスのエンターテインメント性を押し上げ、後世の選手たちにも大きな影響を与えた。