自動車界の絶対的王者フェラーリの偉大さがわかる、『フェラーリ』とあわせてチェックしたい映画たち
イタリアが世界に誇る“赤い跳ね馬”ことフェラーリ 。世界中で熱狂的なマニアを抱えるこの自動車メーカーを生みだした創設者、エンツォ・フェラーリの情熱と狂気を描いた『フェラーリ』が7月5日より公開中だ。
車好きが憧れる超有名メーカーであり、勝者の象徴ともいえる存在ゆえに、これまで数々の作品で取り上げられてきたフェラーリ。新作とあわせてチェックするとよりそのすごさが理解できる作品を、ここではピックアップしてみた。
マセラティの台頭…会社存続の波乱の時期を描く
まずは人生の落ち目から再起すべくレースに挑んでいくエンツォ・フェラーリの人生の一時を、大のフェラーリファンとして知られるマイケル・マン監督が描く『フェラーリ』から。
1957年夏、業績不振により会社の危機に瀕するエンツォ(アダム・ドライバー)は、1年前の息子ディーノの死により、妻ラウラ(ペネロペ・クルス)との夫婦関係も破綻。さらに愛人リナ・ラルディ(シャイリーン・ウッドリー)との息子を認知することも叶わずにいた。
そんな最中、会社の再起を誓うエンツォは、イタリア全土1000マイルを走るロードレース「ミッレミリア」の優勝に望みを託し、新たなドライバーとしてスペイン人のデ・ポルターゴ(ガブリエル・レオーネ)を雇い入れ、万全の体勢でレースに挑むのだが…。
劇中では当時、同じくイタリアのモデナに工場を持っていたマセラティもライバルとして登場し、対比的存在としての関係が描かれていく。なかでも印象的なのが、「車を売るためにレースに出るのではなく、レースに出るために車を売る」というエンツォの美学。この信念からもエンツォがいかに普通の経営者でないか、そしてどれだけレースに傾倒しているのか、元レーサーならではの人物像を理解することができるはずだ。
資金難でも媚びない!フォードをあしらう王者の余裕
『フェラーリ』の劇中でも関係性がほのめかされる、国を越えたライバルといえばフォードだろう。その関係が描かれているのが『フォードvsフェラーリ』(19)だ。
レーシングドライバーのキャロル・シェルビー(マット・デイモン)は1959年の「ル・マン24時間レース」で栄光に輝くも心臓病のために引退。その後、「ル・マン」での優勝を目指すフォードに雇われると、常勝フェラーリに勝つため、イギリス人レーサーのケン・マイルズ(クリスチャン・ベール)を起用し、二人三脚で数々の困難に挑んでいく。
1966年の「ル・マン」を題材にした本作で、業績不振を解消したいフォードがお手本にすべき存在として副社長リー(ジョン・バーンサル)が語るのが、過去5年で4回の「ル・マン」優勝という、時の絶対王者だったフェラーリだ。年間の生産台数はフォードの1日にも満たないなど規模もまったく違う両者だが、それでも“フェラーリ=勝利”というイメージこそ見習うべき点だとリーは力説する。
さらに、スポーツカーを作るノウハウがなかったフォードはフェラーリを買収しようとするが、レースに関する決定権をフォードが持つという条件にエンツォは難色を示したことで交渉は決裂。のちにフィアットに会社を高く買わせるためのダシに使われたことが判明するが、レースに対する姿勢はエンツォの本心だったのだろう。しかし、この行為こそ、フォードの魂に火をつけることになった。
高級車メーカー、ランボルギーニの誕生のモチベーションに
またフェラーリのライバル関係として語られることが多いのが、“フェラーリを買うのは誰かになりたいときだが、ランボルギーニを買うのは誰かであるときだ”といった格言もある、世界屈指のスーパーカーメーカーとして知られるイタリアのランボルギーニ。その創設者の壮絶な人生を描いた作品が『Lamborghini: The Man Behind The Legend(原題)』(22)だ。
トラクターの製造からスタートし、やがて数々のスーパーカーを生みだすことになるフェルッチオ・ランボルギーニの生涯をフランク・グリロ主演で描く本作。第二次世界大戦後、機械いじりが得意な男フェルッチオは軍払い下げのトラックを元に高性能なトラクターを製造し財を成すと、高級スポーツカー作りに情熱を傾けていく。
この高級車メーカー誕生のきっかけとなったのがフェラーリで、ある日、フェルッチオは自分ならよりよい車を作れると宣戦布告していく。一方のフェラーリは、車の問題点を指摘するフェルッチオをエンツォが門前払いにするなど絶対的な存在として君臨。この態度に触発されたフェルッチオはさらに車作りにのめり込んでいくことになり、フェラーリなくしてランボルギーニはなかったということがわかる。
数々のF1チャンピオンドライバーを輩出!
フェラーリといえば、「ル・マン」だけでなくF1でも絶対的王者として長きにわたり君臨。数々の名ドライバーがそのシートに座り、ドラマを繰り広げ、栄冠を手にしてきた。その一人、ニキ・ラウダを扱ったのが『ラッシュ プライドと友情』(13)だ。
毎年多くのドライバーが命を落としていた1970年代のF1界。人生を謳歌するかのような野性的な天性の走りで魅せるジェームズ・ハント(クリス・ヘムズワース)とコンピュータのような正確な走りで好成績を残すニキ・ラウダ(ダニエル・ブリュール)は、1976年の年間チャンピオンを争っていたが、雨のドイツGPで大事故が起こってしまう。これにより大怪我を負ったラウダだったが、わずか42日後にはレースに復帰を果たし、ハントとの熾烈な争いを繰り広げていく。
車のセットアップの天才という噂を聞きつけてニキをチームに引き入れると、そのビッグニュースを聞いたハントも驚きを隠せず、それまで玄人好みの存在だったラウダの名が一般人にも知れ渡るなどなど、劇中で圧倒的な名門として語られているフェラーリ。同時にラウダの同僚ドライバーが「勝っていれば優遇されるが、負けたら即お払い箱」と語るように、その強さを支えるシビアな姿勢も描かれており、レースに懸ける妥協なき姿勢こそが強さの秘訣だと伝わってくる。
このほかにも『栄光のル・マン』(71)ではスティーブ・マックイーン演じるポルシェチーム所属の主人公に立ちはだかる存在として登場し、『グラン・プリ』(66)でも主人公とチャンピオンを争うチームとして描かれるなど、レースを題材としたフィクションの作品でも、絶対的な存在として描かれてきたフェラーリ。
そんな偉大な存在となる前の波乱の時期を描いた『フェラーリ』を観れば、のちにレースチームとして、そして自動車メーカーとしても絶対的な王者となっていくことにも納得させられるはずだ。
文/サンクレイオ翼