なぜこんなに高評価?トラブルだらけの厨房、丁々発止の会話劇、人間模様…「一流シェフのファミリーレストラン」のおもしろさを徹底解説!
シーズン2では従業員それぞれが修行に向かうことに
大成功を収めたシーズン1を受けて、シーズン2では、より個々人の内面を掘り下げ、それぞれに成長を遂げていく過程にフォーカスしている。
今シーズンでは新たにレストラン「THE BEAR」の開店準備に追われるカーミーたち。その予定表には、「EVERY SECOND COUNTS(1秒も無駄にするな)」というカーミーの書き込みがある。シドニーは心機一転、新メニューを開発するためにシカゴの街の美味しいものをめぐり、マーカスはカーミーの紹介でコペンハーゲンのパティシエのもとへ。ティナとエイブは料理学校に、そしてリッチーもまた世界一のレストランに研修に行かされる。それぞれにこれまでの自己流だったやり方を見直し、一流のプロフェッショナルたちのやり方を学ぶ過程で自分自身と向き合っていく。一方、カーミーはクレア(モリー・ゴードン)という幼なじみの女性と再会し、関係を深めていくが幸せになることに臆病になっているようでもある。
マーカスの人間性が深く心に染み入る第4話「ハニーデュー」
個々の内面を掘り下げていく人間ドラマは、シーズン1からさらに深みを増していく。1話が1本の映画に匹敵する質の高さと完成度であるエピソードも多いのだが、特に印象深いのはマーカスがメインの第4話「ハニーデュー」と、リッチーがメインの第7話「フォークス」だろう。
美しく静謐な映像と共に「静かな対話」で綴られる第4話「ハニーデュー」では、「優秀な人間と一緒に働くことの極意」を得て、デザート作りの腕を磨いていくマーカス。秀作ドラマ「ラミー:自分探しの旅」のクリエイターである才人ラミー・ヨーセフが手掛ける演出は、ほかのどのエピソードとも違う静けさを伴うもので、寡黙で努力家、病気の母親思いのマーカスという人物の本質をエピソード全体が表しているようで深く心に染み入る。
第7話「フォークス」で訪れるリッチーの“気づき”
もう一つの第7話「フォークス」は、本シリーズの核心がぎゅっと詰まった白眉とも言うべきエピソードだ。私生活もレストランの仕事も、なにもかもがどん詰まりのリッチーは、カーミーに言われて渋々参加した一流レストランでの研修で、ひたすらフォーク磨きをさせられる。しかし、ここでサービスとは、ホスピタリティとはなにかを学び、カーミーから自分がなにを求められているのかを悟った時、リッチーは耐え難い痛みを伴いながらも、新たな一歩を踏みだそうとする。この”気づき”の瞬間のドラマは、「なにかを始めるのに遅すぎるということはない」という普遍的なメッセージが深く胸に刺さり、視聴者の涙を誘う。
そんな彼の目の先にあるのは、「EVERY SECOND COUNTS」の例の標語だ。ぐっと顔つきも態度も変わり、ビシっとスーツを着て「THE BEAR」に出勤するリッチーの姿に、またも胸に熱いものが込み上げてくる。もっとも、セカンドチャンスが必要なのはリッチーだけではない。カーミーもシドニーもマーカスも、みんながそれぞれにこのレストラン「THE BEAR」に人生を賭けているのだ。すばらしい料理を生みだすスターシェフがいるだけではレストランは成立しないのだという事実。そして、一つのことを極めてプロフェッショナルであることの尊さ、美しさを伝えて、まさに「一流シェフのファミリーレストラン」のテーマが集約されていると言っても過言ではない神エピソードだ。
ウィル・ポールターにオリヴィア・コールマン、サラ・ポールソンら豪華ゲストも登場!
このように各人が”気づき”を得る過程や、ベルツァット家と親族らが集まる第6話「フィッシズ」にも多く登場する豪華ゲストも楽しい。ウィル・ポールター、オリヴィア・コールマン、サラ・ポールソン、ボブ・オデンカーク、モリー・リングウォルドらが登場時間は多くはないが重要な役割を担い、よきスパイスとして機能している。
ところで、本作の原題であり、新たにオープンするレストランの名前でもある「THE BEAR」には、複数の感動的な意味が込められている。シカゴという街や料理、なにがあっても断ち切ることのできない家族への愛。そして亡きマイケルと彼がつないだカーミーとレストランに賭ける人々との絆。そのいずれからも、このタイトルの意味を読み取ることはできるだろう。そうした細部にも目を凝らしながら、現代の最高峰の質を誇る珠玉の映像世界を堪能したい。
文/今 祥枝