なぜこんなに高評価?トラブルだらけの厨房、丁々発止の会話劇、人間模様…「一流シェフのファミリーレストラン」のおもしろさを徹底解説!
一流シェフはバラバラの従業員たちをまとめ上げることができるのか?
クリエイターでエグゼクティブ・プロデューサーと監督、脚本を兼ねているのは、スタンダップ・コメディアンとしてキャリアを積んできたクリストファー・ストーラー。映画『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』(18)や米Huluの秀作シリーズ「ラミー:自分探しの旅」でプロデューサーを務めるなど、優れた”ドラメディ”でも才能を発揮している。ここで、シーズン1&2を簡単に振り返っていこう。
シーズン1の第一の見どころは、チームビルディングの過程にある。第1話の「システム」では、カーミー(ジェレミー・アレン・ホワイト)が悪戦苦闘する様子から始まる。明らかに厨房はカオスで経営状態は悪く、資金難でその日に必要な材量さえ満足に買うことができない。長年勤めるティナ(ライザ・コロン=ザヤス)、ベテラン従業員のエブラ(エドウィン・リー・ギブソン)は変化を嫌い、パン焼き係のマーカス(ライオネル・ボイス)はひたすらマイペース。新入りの優等生シドニーはまかないを任されるが、ティナは素知らぬ顔で前途多難だ。
そこに遅れて亡きマイケル(ジョン・バーンサル)の親友リッチー(エボン・モス・バクラック)がやってくる。いきなり第1話からカーミーと激論になり、リッチーはカーミーが家族をほったらかしにしているから自分が世話をしなければならず、離婚したのもお前のせいだと罵る。一方のカーミーは、ボス面をするリッチーに対して、マイケルはお前に店を遺したのか?と痛い一撃を叩きつける。このほかカーミーらの幼なじみで修理屋のニール(マティ・マシスン、兼エグゼクティブ・プロデューサー)、カーミーの姉で共同オーナーのナタリー(アビー・エリオット、通称シュガー)、店の債権者でカーミーらの亡き父の親友ジミー(オリヴァー・プラット)らがメインキャストとして登場する。
果たして25年間、続けてきた店のエコシステムをいかにして効率よく、カーミーが望むレベルでの仕事のやりやすい職場に変えていくことができるのか?一筋縄ではいかない従業員たちを相手に、カーミーは自身が前の職場で受けたパワーハラスメントなどのトラウマに苦しみながら、自らも人として成長することで、決して一人では成し得ないサンドイッチ店の再建に挑む。
ダイナミックな料理シーンのシークエンスと巧みに展開される人間ドラマ
シーズン1の冒頭から、いきなりテレビシリーズの常識を覆す、迫力ある映像体験に圧倒される。第1話や最終話などでも印象的に使われる、スウェーデンのハードコア パンク バンド”Refused”の「New Noise」のギターリフに乗せて煽られるように映しだされる料理シークエンスは、焦燥感とヒリヒリとした厨房の空気、同時にいまにも爆発しそうな内に秘めたカーミーの熱い闘志をも感じさせて息を呑む。また、シーズン1の第7話「レビュー」では開店時間までの20分ほどの厨房の喧騒を、冒頭の数分以外はワンカットで撮影されており、手に汗握る臨場感もたっぷり!
一方で、先にも述べたように本作は料理ドラマのおもしろさをしっかりと担保しつつ人間ドラマに重きを置いている。シーズン1では、シドニーと新メニュー開発で意見が食い違うなど料理に関する描写もたっぷり楽しめるが、誰よりもお互いの有能さを理解し、料理人として同じ思いを共有できるカーミーとシドニーの猛烈な反発と少しずつ距離の縮まる過程には、緊張感のなかにほっと心が和む瞬間も。
探究心が旺盛なマーカスはカーミーのレシピを手本としてデザート担当に転身し、オリジナルスイーツの研究に熱中する。一方、フランス人シェフによって考案されたスタイルを厨房に持ち込み、分業制が機能し始めるといったレストランの舞台裏を見ることは興味深い。そうした変化のなかで、リッチーが自分の居場所、役割がなくなってしまったと感じる葛藤ややるせなさにもぐっとくるものがある。料理ドラマ、業界内幕ものとしてのおもしろさと同時に人間ドラマを巧みに絡ませた脚本の完成度は、ため息が出るほどすばらしい。
カーミーの家族、兄マイケルにまつわるミステリーも
こうした厨房の人間模様を軸として、もう一つ重要なドラマがカーミーの家族=ベルツァット家の問題だ。本作はマイケルがどんな問題を抱えて、その死の背景にはなにがあったのかをミステリー仕立てとして、その真相を知る糸口、ヒントは第1話から随所に散りばめられている。特にシーズン1の第8話「ブラチョーレ」からの、家族の複雑で深刻な状況が浮き彫りになる5年前の回想シーンを描いたシーズン2の第6話「フィッシズ」へと続くベルツァット家をめぐる人間模様は、エピソードを重ねるごとに厚みを増していく。