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唯一無二の世界観の秘密は”バランス”。「モノノ怪」生みの親が語る、画作りのコツからアフレコ秘話まで

インタビュー

唯一無二の世界観の秘密は”バランス”。「モノノ怪」生みの親が語る、画作りのコツからアフレコ秘話まで

「この人を見ていれば作品がわかる、そういう人物を描くことが大事」

モノノ怪を追い、大奥の中心まで進んでいく薬売り
モノノ怪を追い、大奥の中心まで進んでいく薬売り[c]ツインエンジン

本作のキャストには、神谷浩史黒沢ともよ悠木碧花澤香菜小山茉美梶裕貴福山潤ら豪華声優陣の名前が並ぶ。「みなさん本当にグレートでした!」と声のボリュームが上がるほど興奮気味で太鼓判。「今回はかなり複雑な作品になりそうだったので、できるだけヒントがあったほうがいい。僕からのお手紙という気持ちで、絵コンテの段階からト書きを入れて芝居や感情の説明をしました。今回は『モノノ怪』過去最大級の規模のスタッフでの制作。お手紙に対しての反応なども追加していくことで、作品がどんどん豊かになっていくのを実感しました。こういった作り方は個人作業でもアニメが作れるかもしれない時代に、集団作業でやる唯一無二の意味かなとも思っていて。“共創”していくという感覚です」としみじみ。

“モノノ怪“ならではの世界観で描かれる大奥に隠された真実とは?
“モノノ怪“ならではの世界観で描かれる大奥に隠された真実とは?[c]ツインエンジン

「僕はアフレコ前には長いと1時間くらい、短くても40分くらい、作品説明や人物説明をするタイプ。でも、コロナ禍以降は1回1回それをやることも時間的に難しくて。言い忘れが発生するのを防ぐためにも今回のト書き入りの絵コンテは重要な資料だと思い、北米の作品では絶対にあるストーリーバイブル(物語の起承転結、キャラクター設定などの詳細を記載した資料)を作りました」とのこと。ただ、中村監督の作るストーリーバイブルは、通常のものとはちょっと違っている。

大奥でキャリアアップを図る新人女中のアサ(声:黒沢ともよ)
大奥でキャリアアップを図る新人女中のアサ(声:黒沢ともよ)[c]ツインエンジン

大奥の新人女中でアサと同期のカメ(声:悠木碧)
大奥の新人女中でアサと同期のカメ(声:悠木碧)[c]ツインエンジン

「本来は作品を作る前に作るもの。僕の場合は、作品を作るなかで深まり、答えにいたることが結構あるので、その答えにいたったタイミングで作品のテーマ、全人物の背景の説明、これからどうなっていく人なのかという説明を書き込み、作品に関わる人すべてにお配りしました」と相違点を指摘したうえで、声優陣の芝居に役立ったはずと胸を張る。「役者さんたちの人間性、経験、解釈やこだわり。そういうものが渾然一体となって、一言も集中力が切れていなかったです。名ピアニストがたくさん来て、演奏の仕方を相談して選ぶみたいなアフレコでした。お渡ししたもので考えてもらって、そこから醸しだされた“言霊”みたいなものをいただく感じ。時にはいただいた意見で、『絵を直しちゃおうかな』となることもあったりして。アフレコが進むと、お芝居が重ねられていく。入っている声を聞いた人がアンサーを返していく。その積み重なっていく過程は本当に素敵で、ドキュメンタリーを撮ってほしいと思ったくらいです!」と笑顔が弾ける。

大奥に派遣されたお目付け役、三郎丸(声:梶裕貴)
大奥に派遣されたお目付け役、三郎丸(声:梶裕貴)[c]ツインエンジン

三郎丸の同僚、平基(声:福山潤)は大奥内で歌山の失脚材料を探そうと動く
三郎丸の同僚、平基(声:福山潤)は大奥内で歌山の失脚材料を探そうと動く[c]ツインエンジン

「大奥に派遣されたお目付け役の三郎丸を演じた梶さん、平基役の福山さんはずっとご一緒したかった方。アフレコの時にそのまま『ずっと仕事したかったです!』という愛を叫んじゃいました(笑)。アサ、カメの先輩女中である麦谷を演じたゆかなさんには、『モノノ怪』とはなんぞやというのを語り継いでほしいという想いでオファーしました」と声優陣への想いも明かす。「本当にうまい声優さんしかいなくて、複雑なお話なのにアフレコはすぐに終わりました。黒沢さん、悠木さんはオーディションの時から説得力があって、『もう決まりでしょ』って言葉しか出てこなかったし、本作のキーマンである、北川役の花澤さんはみんなが“困った時の花澤さん”って言ってるのが納得のお芝居でした。薬売りを演じた神谷さんにいたっては一瞬でアフレコが終わっちゃいました。アフレコ前に作品について、薬売りについてかなりいろいろとおしゃべりをしたので、本番時にはもう仕上がっていた感じです。みなさん、本当にすごいです、ヤバいです!観れば理解してもらえるはず!」と念押し。


さらに主題歌「Love Sick」を担当するアイナ・ジ・エンドについては「いい意味で闇を感じる声。加工感を出さずに、アイナさんの魅力的な声、細かいかすれを入れてほしいとリクエストしました。『モノノ怪』はどれだけ画面が綺麗でも基本“闇ってる”、闇が大事なプチメンヘラ作品。そういうところにすごく合っている曲と声でかなり気に入っています!」と大満足のようだ。


モノノ怪を斬ることのできるこの世で唯一の存在”退魔の剣”
モノノ怪を斬ることのできるこの世で唯一の存在”退魔の剣”[c]ツインエンジン

モノノ怪を斬り祓うことができる、薬売りの持つ”退魔の剣”の封印が解かれるには、“形”“真” “理”の3つが揃うことが必要だ。中村監督がアニメ制作で必要だと思う3つは「テーマ、作品を象徴する人物、ほかの作品と差別化できるアイデア」だそう。「主役を描くのではなく、この人を見ていれば作品がわかる、そういう人物を描くことが大事。その人が作品独特のアイデアや、テーマと響き合っているかどうかを表にしてチェックするようにしています。企画を作る時はその表でバランスを確認しながらやっています。僕ってバランスばかりとっているかも(笑)」と笑いながらも、欠かせないことだと強調した。17年の時を経て、中村監督と、作品への愛があふれるスタッフたちが作り上げた『劇場版モノノ怪 唐傘』の根底にも、必ずこの3つを感じられるはず。こだわり抜かれたストーリーテリングと映像美、豪華声優陣によって唯一無二の作品に昇華させた本作を、大スクリーンで堪能してほしい。

取材・文/タナカシノブ

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