7分半ワンカットに2大スターのタッグまで、デヴィッド・リーチ監督が生みだした超絶アクションを振り返る|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
7分半ワンカットに2大スターのタッグまで、デヴィッド・リーチ監督が生みだした超絶アクションを振り返る

コラム

7分半ワンカットに2大スターのタッグまで、デヴィッド・リーチ監督が生みだした超絶アクションを振り返る

落ち目のスタントマンがスター失踪事件に巻き込まれる様子をライアン・ゴズリング主演で描いたアクション大作『フォールガイ』(公開中)。メガホンを握るデヴィッド・リーチ監督といえば自身もスタントマン出身であり、最近はアカデミー賞スタント部門設立のために尽力するなど、業界を引っ張る存在だ。超ド級アクションのデパート状態の『フォールガイ』はもちろん、これまでに数々のアクションシーンを生みだしてきたリーチ監督の、こだわりが詰まったアクションの数々を紹介していきたい。

世界観を落とし込んだ『ジョン・ウィック』の説得力抜群なアクション

浮世離れしているけどどこか現実味のある『ジョン・ウィック』の世界観を踏襲したアクション
浮世離れしているけどどこか現実味のある『ジョン・ウィック』の世界観を踏襲したアクション[c]Summit Entertainment/courtesy Everett Collection

同じくスタントマン出身のチャド・スタエルスキと共に1997年に制作プロダクション87eleven Action Designを立ち上げると、完成度の高いアクションを作り上げてきたリーチ。そのスタエルスキとの共同で映画初監督(リーチはノンクレジット)を務めたのが『ジョン・ウィック』(14)だ。

リアルだがどこか浮世離れしたグラフィックノベル的な世界観のなか、キアヌ・リーブス演じる殺し屋ジョンの復讐を描くこのシリーズ。現実味とケレン味のバランスはアクションに関してもこだわり抜かれており、実践的に見えつつもカッコいいという絶妙なリアリティラインが保たれている。

胸の前で合唱するよう腕を折り畳むC.A.Rスタイルのガンアクションが特徴的だ(『ジョン・ウィック』)
胸の前で合唱するよう腕を折り畳むC.A.Rスタイルのガンアクションが特徴的だ(『ジョン・ウィック』)[c]Summit Entertainment/courtesy Everett Collection

銃の構え方一つを取っても、胸の前で腕を小さく畳み込むC.A.R(Center Axis Relock)システムを採用しており、狭い場所でも敵を的確にねらえ、リロードを素早くパパッと行えるなど実践的。そこに柔術的な格闘ムーブを絡めて戦うジョンの姿は、華麗でありながらもリアリティも感じさせる。

柔術を交えた軍隊式近接格闘も見応え抜群だ (『ジョン・ウィック』)
柔術を交えた軍隊式近接格闘も見応え抜群だ (『ジョン・ウィック』)[c]Summit Entertainment/courtesy Everett Collection

数多のアクションシーンのなかでも圧巻はナイトクラブでの銃撃戦。大勢の客のなかから止めどなく現れるロシアンマフィアに対し、ジョンは敵の足に絡み付きながら別の敵の額に銃弾をお見舞いしたり、流れるような動きで鮮やかに仕留めていく。

ゲームのようにサクサクと敵を沈める華麗なガンファイトは、中ボス的な敵の幹部とのフェーズインすると肉弾戦に突入。2階から1階に背中から投げ落とされる武骨なスタントまで飛びだすなど、見応えとお得感抜群のシークエンスだった。

重くて、痛くて、長い『アトミック・ブロンド』でのワンカット

『ジョン・ウィック』で成功を収めたリーチ監督が、主演・製作のシャーリーズ・セロンからのご指名で監督することになった『アトミック・ブロンド』(17)。本作はイギリス秘密情報部の女性スパイであるローレンが、東西を分断する壁の崩壊が迫る1989年のベルリンで極秘ミッションに投じていく姿が描かれる。

自分の体に縄を括りつけてアパートの窓から飛びだして下の階に移動するなど、ダイナミックかつ骨太なアクションのオンパレードの本作。なかでも白眉は、約7分半にもおよぶワンカットでのアクションシーンだ。

ビルのエレベーターを降りたローレンが、階段の踊り場で待ち受けていた2人の男と殴る蹴るの肉弾戦を繰り広げるこの一幕は、取っ組み合いながら階段を転げ落ちたり、投げ飛ばされて壁に激突したり…。泥臭い戦いは観ているだけで痛みが伝わってくるかのような重厚感。

長引く戦いをカットなしの長回しで捉えており、息を切らしながらも立ち上がるローレンのヘロヘロな姿には演技を超えたリアリティが漂っている。このアクションを構築してみせたリーチ監督とスタントマンたちの職人業、そして自らやってのけたセロン様のド根性には頭が上がらない。

性格の違いをアクションで表した『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』

2018年の『デッドプール2』など大人気シリーズを任されるまでにステップアップしたリーチ。2019年の監督作『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』では、ドウェイン・ジョンソンとジェイソン・ステイサムというハリウッド最強のアクション俳優2人を贅沢に使い、エンタメ感抜群のアクションを作り上げた。

この「ワイルド・スピード」シリーズのスピンオフは、犬猿の仲として知られるホブス(ジョンソン)とデッカード(ステイサム)が世界の危機に立ち向かうためコンビを組むという内容で、正反対だが似た者同士の凸凹コンビの共闘が熱い。

「ワイスピ」らしいカーアクションをはじめ多彩なアクションが満載の本作で光っているのが、キャラクターの個性の違いを表現する巧みなアクション演出。例えば、ホブスがLAで、デッカードがロンドンで悪党のアジトを急襲する冒頭のシーンでは、腕っぷしだけで相手を圧倒するホブスと様々なアイテムを利用しながら華麗に倒していくデッカードの様子を交互に見せ、2人のスタイルの違いを映像だけで見事にわからせていく。

その後のミッションでも互いの力を見せつけ合うかのように反目し続ける2人だったが、最強の改造人間ブリクストン(イドリス・エルバ)を前にしだいに協力。最後は1人が殴られている間にもう片方がブリクストンを殴るという荒っぽすぎるやり方で最強の敵に立ち向かうなど、関係性の変化を表現する元スタントマンらしいアクションが冴えわたっていた。


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