江口のりこの”静かな狂気”がせつない…映画ファンが伏線を考察!『愛に乱暴』に抱いた様々な想い
多彩な解釈の余地があるラストの決断
また本作は、近所のゴミ置き場での不審火や声は聞こえるが決して姿を見せない愛猫ぴーちゃん、桃子が随時チェックしている不倫SNSアカウントなど、序盤から不穏な空気感が前面に押しだされており、ハラハラ感のあるサスペンスとしても楽しめる。
「サスペンスとしても見応えがあり、徐々に過去が明かされていくたびにイメージが上書きされる。巧みなミスリードに興奮しました」(50代・女性)とあるように桃子への印象がガラッと変わる中盤でのとある劇的な仕掛けを機に物語は急激に動きだす。桃子はチェーンソーを手になにをしようとしているのか?クライマックスに向けて、不穏な要素が桃子の個人的な物語へと収束していく展開は見ものだ。
サスペンスならではの謎めいた部分も多い本作だけに様々な解釈を生んでおり、例えば、「随所で登場するゴミ捨て場がなにを意味していたと思うか?」と質問してみたところ、多岐にわたるな意見が寄せられた。
「日々の不満、不本意などドロドロしたものの掃き溜め場所であると共に、常に綺麗な状態であってほしい、ある種神聖な場所」(40代・女性)
「近所で火事が起き、うちのゴミ捨て場でも起きるかもという心理は、うちもいつか離婚してしまうのかというソワソワ感を表していたのか」(20代・女性)
「桃子の環境の変化のメタファーだと思いました。散らかり方や桃子のゴミの出し方もそうですし、また放火の現場がどんどん近づいてきて最後は桃子たちのゴミ捨て場が放火されるのは、桃子への最後通牒のように感じました」(30代・女性)
また桃子がとある決断を下すラストをはじめ、カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭の反応に見られたような、多彩な解釈がアンケートには並んでいた。
「周囲から孤立した主人公が自滅していくと想像したが、ラストにはむしろ安堵感がいっぱいになっていった」(50代・女性)
「住んでいた家を取り壊すことで桃子自身の気持ちが少し晴れやかになり解放されたかのような印象を受けました」(30代・女性)
「他人のためになにかをしないと、自分の価値を維持できない人が一歩踏みだすような映画だと思った」(20代・女性)
「ジワジワとした伏線回収がありましたし、観終わったあとにラストのよさがいくつも感じられるような作品でした。登場人物みんなそれぞれ自己愛が強すぎる人たちでしたが、自分も知らず知らずに同じようなことをしているのではないかと…いろいろ考えさせられる」(40代・女性)
「孤独でも生きなければならない、とても考えさせられる作品であり、回数を重ねるたびに見方が変わり何度でも楽しめる作品でした」(30代・女性)というコメントからもわかるように、何度も観たくなるような深さがある『愛に乱暴』。繰り返し観るうちに新たな発見があるかもしれない。
構成・文/サンクレイオ翼