「けいおん!」から「平家物語」、『きみの色』へ!紡がれてきた監督、山田尚子の作家性をひも解く|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
「けいおん!」から「平家物語」、『きみの色』へ!紡がれてきた監督、山田尚子の作家性をひも解く

コラム

「けいおん!」から「平家物語」、『きみの色』へ!紡がれてきた監督、山田尚子の作家性をひも解く

社会現象にもなった『映画「けいおん!」』(11)や、国外からも高い評価を受けた名作『映画 聲の形』(16)などの監督を務め、思春期の少年少女の心の動きを巧みに描く技術に高い評価のある山田尚子。その最新作となる『きみの色』がついに公開となった。6月には上海国際映画祭で金爵賞アニメーション最優秀作品賞を受賞するなど、公開前から期待を集めてきた。

バンドを組むことになった少年少女3人が悩みと向き合い、前へと進んでいく姿を描く

山田監督といえば、10代の人物を描く青春ストーリーに定評がある。『きみの色』もその一つで、脚本と音楽にはそれぞれ幾度となくタッグを組んできた吉田玲子と牛尾憲輔、キャラクターデザイン・作画監督には山田の監督作品であるテレビアニメ「平家物語」で激しい戦場と運命に翻弄された人々の姿を見事に描きだした小島崇史を迎え、その布陣からも“本気度”の高さがうかがえる。

10代の少年少女が抱く悩みや葛藤を瑞々しく描く青春ストーリーに定評がある山田監督
10代の少年少女が抱く悩みや葛藤を瑞々しく描く青春ストーリーに定評がある山田監督[c]2023「きみの色」製作委員会

物語の舞台は長崎のとある地方都市。カトリック系の女子校に通う高校生の日暮トツ子(声:鈴川紗由)、トツ子の同級生で、生徒たちの憧れの的でもある作永きみ(声:高石あかり)、そして偶然の出会いから2人とバンドを組むことになった他校の男子生徒、影平ルイ(声:木戸大聖)の3人を中心として、それぞれのバックグラウンドや悩み、それに苦しみながらも少しずつ向き合い、前へと進んでゆく姿が描かれる。

トツ子には自分以外の人にその人特有の“色”が見えており、きみや友人、先生の姿に「とてもきれいな色」「落ち着く色」と感じたり、ルイときみのセッションに新しい色を見いだし、その感情の変化を敏感に感じ取る描写も見られる。

自分以外の人それぞれの“色”が見えるトツ子
自分以外の人それぞれの“色”が見えるトツ子[c]2023「きみの色」製作委員会

きみは祖母や家族の期待に応えて学園に通っていたが、突然学校を退学し、その事実を祖母に隠したまま街の書店でアルバイトをしながらギターの練習に励んでいる。

突然学校を辞め、書店でアルバイトをしながらギターの練習に取り組むきみ
突然学校を辞め、書店でアルバイトをしながらギターの練習に取り組むきみ[c]2023「きみの色」製作委員会

ルイは離島に住む医師の息子で、家業である島の医院を継ぐことが運命づけられている。それでも音楽が好きという気持ちが強く、勉強に励むかたわらで島内の古い教会に楽器を持ち込み、音楽活動に取り組んでいた。

離島の開業医の息子で、親に内緒で音楽活動をしてきたルイ
離島の開業医の息子で、親に内緒で音楽活動をしてきたルイ[c]2023「きみの色」製作委員会

キャラクターの心情を抽象的な映像表現も駆使しながら描く独特な世界観

山田監督の持ち味である巧みな情景描写は本作でも健在だ。「平家物語」でも用いられた、絵の具のしずくを紙に落としたような映像や、『リズと青い鳥』(18)の童話シーンをはじめ印象的なシーンで取り入れられていた淡い色での主線などが本作でも要所で用いられており、どこか絵本のように懐かしく、儚い印象を受ける。

10代の頃の苦い思い出や、壁にぶつかり悩んだ経験は誰にでも思い当たるはず。いままさにそれらと対峙しているキャラクターたちの揺れ動く心を、こうしたアナログめいた画面作りにより視覚的に表現している。

【写真を見る】繊細かつ抽象的な映像表現も駆使しながら物語が紡がれていく
【写真を見る】繊細かつ抽象的な映像表現も駆使しながら物語が紡がれていく[c]2023「きみの色」製作委員会

トツ子が過ごす学校もまた、理想郷のように美しく描かれている。そんななかでも生徒たちの生活は細やかに描きだされ、トツ子たち寮生が朝食になにを食べるのか、どのように学業に励んでいるのか――。どのシーンでもすべてのキャラクターたちの動きが細やかに表現され、スクリーンのなかで生き、そこに暮らしていることを感じられる。

カトリック系の女子校が舞台
カトリック系の女子校が舞台[c]2023「きみの色」製作委員会


関連作品