池松壮亮がカンヌの地で思い巡らせた、日本映画の未来と自身のキャリア「映画を作ることが夢を諦める作業になる現状はつらい」

インタビュー

池松壮亮がカンヌの地で思い巡らせた、日本映画の未来と自身のキャリア「映画を作ることが夢を諦める作業になる現状はつらい」

「僕が子ども2人にどういう態度を見せるか、『映画って楽しいんだよ。大変なこともあるけど、みんなで人生を持ち寄って映画作りを楽しもうよ』と伝えられるのか。演じることの豊かさを、押し付けることなくなんとか2人に体感してもらいたいと思っていました。自分がとる態度や言葉が、次の誰かに影響を与えてしまうかもしれないというのは、映画という文化産業に携わるものとして常に考えることです」

撮影中、中西と越山が演技を楽しめるよう心掛けていたという池松
撮影中、中西と越山が演技を楽しめるよう心掛けていたという池松[c]Kazuko Wakayama

「若い2人が心を存分に解放できるように、できる限りサポートしたかった」

映画のクライマックスとも言える、凍てつく湖での美しいシーンはクランクイン初日からたっぷり時間を取って撮影が行われた。前夜に監督と話し合い、若い2人の役者が楽しんで演技ができるよう、たくさんのアイデアを持ち込んだ。撮影以外では役名で呼ぶことを止め、2人がこの物語を体感し、自ら演技を得ていく環境づくりにこだわった。
「2人が心を存分に解放できるように、できる限りサポートしたかった。目の前の人と向き合い、同じ時間を共有するなかで感情が芽生え、それを日々発見しながら物語が自ら立ち上がっていく過程を一緒に体感したかったんです。氷の湖の撮影でも非常に自由なやり方で――これは奥山さんがカメラを構えるという特殊な状況で成立したのですが、4人が充分な時間を使って、丁寧に向き合うなかで生まれる豊かさを映画に取り込もうという姿勢が、あのような奇跡のようなシーンを生みだせた要因ではないかと思っています」

第77回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門へ選出され、世界から注目を集めている『ぼくのお日さま』
第77回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門へ選出され、世界から注目を集めている『ぼくのお日さま』[c]2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINÉMAS

カンヌ映画祭のプレミア上映で、万雷の拍手を受けてタクヤ役の越山敬達は泣き崩れていた。それを見守る池松の顔にも、興奮や安堵の表情のほかに、使命感、達成感のようなものが見え隠れしていた。それは、俳優を続けていくなかで彼が感じていた日本映画の現状を変えたい、変えるきっかけをつくりたいという切実な思いに応える感触が得られたからかもしれない。

「『映画を作るということが夢を諦める作業になっている』日本映画の現状はつらい」

池松壮亮のデビューは10歳、劇団四季の「ライオン・キング」。トム・クルーズ主演のハリウッド映画『ラスト・サムライ』で映画初出演した時は13歳だった。


映画初出演にして、いきなりハリウッド大作『ラスト・サムライ』でデビューした池松
映画初出演にして、いきなりハリウッド大作『ラスト・サムライ』でデビューした池松[c]Kazuko Wakayama

「1本目がアメリカ映画で、当然あれ以上のスケールを持った作品に出会っているかというと、そうではありません。先日K2 Picturesの会見で西川美和監督がおっしゃっていましたが、『映画を作るということが夢を諦める作業になっている』そういう日本映画の現状はつらいです。市場規模や映画を取り巻くシステムがそうさせてしまっているんですが、いい映画を作って届けるための合理性ではなく、いかにお金や時間をかけずに撮って多くの人に見せるかの合理性が重視されています。とても厳しい条件で、(キャストもスタッフも)いいパフォーマンスをするために時間と労力をかけられない状況にあります。それでも僕は諦めがつくようなタイプではないんですが、この環境で映画を作り続けることの限界を感じることはありました」

作品情報へ

関連作品