池松壮亮がカンヌの地で思い巡らせた、日本映画の未来と自身のキャリア「映画を作ることが夢を諦める作業になる現状はつらい」
「当たり前のように、世界を相手に映画を作り届けることができるようになってほしい」
日本映画界では、是枝監督や西川監督、深田晃司監督らが立ち上げた「映画監督有志の会」の働きかけによって、映画製作現場の働き方改革がようやく進み出した。厳しい労働環境では、映画の顔としてカメラの前に立ち続ける俳優たちの疲弊も相当なものだろう。「僕は映画が好きな気持ちが恐らく人よりちょっと強いので、その点で保てていることがあると思いますが、それでも条件がいいとは思わないし、いい環境だとは思いません。実際に俳優の夢や可能性が失われている現状は、楽観的にはなれません。日本は、いい俳優が育つ環境としては条件が悪いんじゃないかな。本当に演技を追求したい、あるいはいい作品の一部になりたいと考える俳優はなかなか出てこず、俳優とは本来関係のないことに一生懸命にならざるを得ない状況のなかで、いつの間にか皆疲弊しているように見えます」。『ぼくのお日さま』がカンヌ映画際で温かく迎え入れられ、2018年に塚本晋也監督の『斬、』(18)でヴェネチア国際映画祭に参加した時のことを思い出したという。そういった「映画の幸福な瞬間貯金」が、池松の原動力になっている。
「上映のあとはハイになっていたのか、興奮覚めやらぬというか、なかなか寝付けませんでした。カンヌで久々に“夢”を見た気がしました。6年前にヴェネチア映画祭へ行って、その時さらに映画が好きになる感覚がありました。映画祭がゴールではないですが、世界に向けて映画を作り、海を越えてより多くの観客に観てもらうための窓口がカンヌやヴェネチアだと思います。日本国内では、映画の輸出に目を向けて来ず、海外の観客にも届けているのは一部の映画のみでした。もっと当たり前のように、世界を目指すのでもなく、世界を相手に映画を作り届けることができるようになってほしいなと思います」
「映画という世界共通言語を使って、人種とか文化とか言語を飛び越えられるようなことをやりたい」
ここ数年の池松のフィルモグラフィには、海外作品や共同製作作品も多数含まれている。俳優として、映画の作り手としてどのような未来を思い描いているのだろうか。折しも、池松が『ラスト・サムライ』で共演した渡辺謙、真田広之の出演作が海外で好評を得ている。
「自分のキャリアにおいて、今後どう広げていきたいかの漠然としたビジョンはあります。日本映画においては、長らく想い続けていることですが、なかなか普段こんなことを言っても伝わらないなという感覚があり、あまり表立って口にしてきませんでしたが、ここはカンヌだし、言ってしまうと、映画の価値を上げていきたいと思っています。かつて映画の価値が高かった、あるいはこれだけ優れた映画の価値を教えてもらった国に生まれて、それを繋げられないのは、悲しくてしょうがないです。僕だけの力ではなにも変わらない。だからといって、絶対に放棄したくない。海外作品については、キャリアの始まりが海外だったということ、海外の作品にたくさんの影響を受けてきたこともあり、いつも頭にあります。先人たちの受け継いでくれたものがあっての現在地だと思うので、日本の俳優として、(渡辺)謙さんや真田(広之)さんがやってきたこと、あるいは海外の俳優が異国の地でやってきたことも自分の蓄積として考えています。少し前までは、日本を離れた人はもう少し切り離して考えられていたんです。そして多分、真田さんは日本を離れないとやれないことを追求しました。だからこそ僕はもっと軽々と、映画という世界共通言語を使って、人種とか文化とか言語を飛び越えられるようなことをやりたい。できれば次の世代に、こういうやり方もあるよと提示できるようなことを」
取材・文/平井伊都子