松坂桃李、難役に挑み続ける理由「好奇心を抱いてもらえる男にならないと」
特撮ヒーロー番組「侍戦隊シンケンジャー」で俳優デビューし、今や世代を代表する実力派俳優となった松坂桃李。沼田まほかるのベストセラー小説を映画化した『ユリゴコロ』(9月23日公開)では、過酷な運命に身を投じていく青年を体現。松坂は「ここまで心が揺さぶられ続ける役は初めて」と語り、新たなチャレンジとなったようだ。いつもイメージを覆すような“難役”に挑んでいる彼だが、一体その原動力とは何なのか?そこには、偉大な先輩の存在があった。
余命わずかな父親の書斎で、殺人者の告白がつづられたノートを発見した青年・亮介(松坂)が、恐ろしき事件の真相に迫っていく姿を描く本作。亮介は一見穏やかだが、次第に、憎しみ、悲しみ、愛情などあらゆる感情を爆発させていく難しい役どころ。松坂は「ノートを見つけて読み解いていくうちに、自分自身も知らなかった本質的な部分がわき出てきてしまう役」と苦労を吐露する。
「最初から衝動的な人物だったら、スタートダッシュの勢いで行けばいいと思うんですが、亮介は徐々に感情が表れてくる。逆にその感情を押し込めたりすることもあって、亮介を演じるには“抗いたいけど、抗えない”という気持ちのやり取りが必要になりました。繊細な部分を要求されることが多い役なので、それを短い撮影期間で表現するのは難しいことでした」。
亮介の“本質的な部分”が見え隠れする場面では、ゾクッとするほど鬼気迫る表情を見せている。初タッグとなった熊澤尚人監督と綿密な話し合いを重ね、亮介の心に寄り添った。「熊澤監督の第一印象は、ニコニコしていて優しそうだなと思ったんです。でもぜんぜん優しくなかった(笑)。ニコニコしながら、あえて取りづらいようなボールを投げてくるような感じ。“こういう感じで行こう”と考えていたことをひっくり返されるような、予想を超えてくるような演出もあったり。でもだからこそ、“どうしよう”とずっと亮介や作品のことを考えていられた」。
なんとも過酷な撮影となった様子だが、その環境にも支えられたという。「撮影がギュッと詰まっていたおかげで、自然と追い込まれていく表情が出せたのかもしれません。体力的にも精神的にも疲弊していって、自分でも予想しなかったような表情や動きが出せたと思います。それは、監督の意図だったんだと思います。監督の手の上で操られていた可能性がありますね」と楽しそうに語る姿からも、充実ぶりがうかがえる。
亮介役は「ここまで揺さぶられ続ける役は初めて」と新たな挑戦となった。「確かに疲れましたが、すごくいい経験をさせていただいたと思っています。揺れ動く、揺さぶられる、こらえる、引っ張られるといった感情すべてが亮介には詰まっていた。僕は沼田さん原作の作品が続いていて、『彼女がその名を知らない鳥たち』にも出演させていただいています。同じ原作者の方が書いたものでも、こうも違う表現ができるのかと驚きました」と表現の面白さも実感した。
近年はドラマ「ゆとりですがなにか」の童貞教師、「視覚探偵 日暮旅人」での探偵、舞台「娼年」では男娼を演じるなど、役者としての振り幅の広さを証明している松坂だが、「自分のなかでもハードルを上げていかないといけない」と役者業への熱き姿勢を明かす。
作品選びの基準は、「“面白そう、ワクワクする”ということ。味わったことのないような経験ができそうだと思うと、ワクワクします」という“好奇心”。もちろん、未知なる世界に飛び込むことは「怖い」と感じることもあるそうだが、「作品を重ねるごとに、好奇心を使って行動する範囲が広がってきている」と懐がどんどん深くなっている。
どんな役も受け止める強さは、一体どのように培ったのか問いかけると、「尊敬する俳優さんや女優さんと、ご一緒させていただいたときに受ける刺激が大きいかもしれないです」とじっくりと語り、目標とする存在として「役所広司さんと樹木希林さん」と名前を挙げる。
「役所さんとは『日本のいちばん長い日』『孤狼の血』とご一緒させていただいたのですが、役者としての凄さをまざまざと見せつけられて、それを体験することだけでいっぱいいっぱいでした。次こそは何かやりたいと思うし、今回の熊澤監督もそれは同じでした。素敵な方とまたご一緒するためには、自分ももっとチャレンジして、役者としての厚みを身につけて、逆に好奇心を抱いてもらえるような男になっていないといけない。そうやって出会いを重ねるごとに、大きな目標ができています」。包容力あふれる大人の男へと成長した松坂桃李。高みを目指す彼から、ますます目が離せない。【取材・文/成田おり枝】