残酷で痛すぎる“死のゲーム”…ホラー史を変えた『ソウ』の衝撃を振り返る
ホラー映画というジャンルには若い才能の登竜門という性質がある。なにしろ、スターは必要がないし、描写は創意工夫でカバーできるので予算もかからない。低予算を逆手に取ることで、荒々しい雰囲気をかもしだすこともできる。トビー・フーパー監督の『悪魔のいけにえ』(74)、サム・ライミ監督の『死霊のはらわた』(81)はその好例。では21世紀のその代表作はなにかと問われたら、これはもう『ソウ』(04)一択だ!
2004年10月に日米で公開された『ソウ』は120万ドル(当時の為替レートで約1億3000万円)という製作費ながら、全世界興収が1億ドル(同109億円)を突破。以後、雨後のタケノコのように亜流作品が作られたが、レンタルビデオ店のホラーコーナーに無数の類似作品が並んでいたのを記憶している方も多いのでは。日本でも『ソウ』に触発された無数の“デス・ゲーム”ものの映画、漫画、ゲームなどが生みだされ、いまなお大きな影響を与え続けている。
ともかく、ホラーフランチャイズはスタジオにとって費用対効果が抜群で、当然のように『ソウ』も続編が作られた。そして気づけば、最新作『ソウX』(10月18日公開)で20年も続き、10作目を数えた。本物は生き残ったというわけだ。
緊迫感あふれるミステリー、そしてあまりにも痛すぎる死の“ゲーム”
もう少し深く、『ソウ』の凄さについて触れていこう。まず、設定が斬新だった。目が覚めたら、部屋の隅に拘束されている男。部屋の反対側には、同じように拘束されている男がいる。生き残るためには、一方を殺さなければならないという不条理な“ゲーム”は、誰が仕掛けたものかもわからない。シンプルだが異様な緊張感をはらんでいる、この流れの強烈な吸引力。公開当時、日本では“ソリッド・シチュエーション・スリラー”というキャッチコピーが付けられたが、以後それがジャンル名として定着してしまったことが、その強力さを物語っている。
もちろん、物語にはミステリーも宿っていた。“ゲーム”の一方で、これを仕組んだジグソウと呼ばれる連続殺人犯を追っている刑事たちの奔走が描かれ、“ゲーム”がこれまでに何度も仕掛けられていたことがわかってくる。さらに、刑事たちでさえ“ゲーム”の駒であったことも…。ジグソウは、一体どこにいて、なにをしようとしているのか。いずれにしても、ジグソウがとてつもなく頭の切れる人物であることが伺え、それがまたカリスマ的な魅力を放ってもいた。
そしてなにより、非情に考え抜かれた、なおかつ暴力的な死の“ゲーム”。部屋に閉じ込められた男2人の生存競争には、足枷を外すために自身の片脚を切るという痛々しい選択も含まれる。また、別の被害者は顔に特殊な装置を付けられ、一定時間に課題をクリアできないと頭部が砕かれる、というゲームを強いられていた。この装置のレトロフューチャーなルックも鮮烈。指令を伝えるためにテープレコーダーを持って、三輪車で出現するジグソウ人形のビジュアルも含めて、恐怖を喚起する映像に抜かりがない。