引退してほしくない!91歳の名優マイケル・ケイン、“個性”を築いた60年代、唯一無二の輝き

コラム

引退してほしくない!91歳の名優マイケル・ケイン、“個性”を築いた60年代、唯一無二の輝き

変幻自在、“沼”にハマったら抜け出せない魅力

ジェーン・フォンダと共演した67年の『夕陽よ急げ』
ジェーン・フォンダと共演した67年の『夕陽よ急げ』[c]Everett Collection/AFLO

そして60年代最後の『ミニミニ大作戦』(69)では、軽妙さとともに犯罪集団を束ねるカリスマ性も発揮。この3作だけでも、俳優・マイケル・ケインの原点の魅力を存分に堪能できる。60年代のイギリス、ロンドンは“スウィンギング60’s(シックスティーズ)”と呼ばれたように、華やかなカルチャーの発信地で、音楽はザ・ビートルズやザ・ローリング・ストーンズ、ファッションはツイッギーやマリー・クワントなどが、世界的な流行のムーブメントを作り出していた。マイケル・ケインは映画俳優として、その一員でもあった。時を経て2017年、ケインはドキュメンタリー『マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!』をプロデュース。スウィンギング60’sを牽引した面々の貴重な証言が収められた同作に、ケイン自身もプレゼンターとして登場する。自身の原点の時代への思いが重ねられるという意味で、これは彼の“隠れた代表作”でもある。

400万ドルの金塊強奪に挑むチームを率いるボス役の『ミニミニ大作戦』
400万ドルの金塊強奪に挑むチームを率いるボス役の『ミニミニ大作戦』[c]Everett Collection/AFLO

さらに70〜80年代には、マイケル・ケインの個性が強烈に発散される作品が相次ぐ。伝説の名優ローレンス・オリヴィエと対等に渡り合う『探偵<スルース>』(72)、驚くべき扮装で背筋を凍らせる『殺しのドレス』(80)、濃密な二人芝居の『デストラップ・死の罠』(82)あたりは、俳優という域を超え、観る者の心を激しくざわめかせる“怪物”的なパワーすら発揮。比較的、誰にでも口当たりの良い名演だったオスカー受賞作と並べれば、マイケル・ケインという俳優の変幻自在、万華鏡の“沼”にハマり、抜け出せない(=他の俳優では物足りない)感覚に陥ることだろう。

2大名優の演技合戦にゾクゾクの『探偵<スルース>』
2大名優の演技合戦にゾクゾクの『探偵<スルース>』[c]Everett Collection/AFLO

そんなケインは、90歳を前に自伝「わが人生。名優マイケル・ケインによる最上の人生指南書」を発表。タイトルどおり失敗や逆境の乗り越え方が、独特のユーモアも込めた語り口で綴られ、これまでの数々の出演作を重ねながら読むとじつに感慨深い。

【写真を見る】これが最後の演技…89歳の元退役軍人を滋味深く演じた『2度目のはなればなれ』
【写真を見る】これが最後の演技…89歳の元退役軍人を滋味深く演じた『2度目のはなればなれ』[c]2023 Pathe Movies. ALL RIGHTS RESERVED.

最後の映画となる『2度目のはなればなれ』は、主人公が老人ホームで一緒に暮らしていた妻を置いて、過去の深い思いに向き合う「ある旅」に出る物語。マイケル・ケインの俳優としての長い旅が、どんな情景で終わりを見せるのか。完璧なまでに美しいラストシーンに感極まる人もいれば、「引退撤回をして、もう少し演技を観たい」と痛感する人も多いことだろう。


文/斉藤博昭

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