古代ローマを甦らせた名作『グラディエーター』はどこがすごかった?映画史に残る功績を徹底解説!

コラム

古代ローマを甦らせた名作『グラディエーター』はどこがすごかった?映画史に残る功績を徹底解説!

怪優、ホアキン・フェニックスの片鱗もここに!

実力派を揃えたキャスティングも本作の大きな魅力だ。復讐に燃える不屈の男マキシマス役は、シリアスドラマからブロックバスターまで幅広く活躍しているクロウ。当時はオーストラリアからハリウッドに拠点を移し、『L.A.コンフィデンシャル』(97)や『インサイダー』(99)で注目されていたころだった。躍動感あふれるアクションはもちろん、胸を打たれるのは激情を秘めた静かな演技。なかでもコロセウムで勇敢な戦いを称えるコモドゥスに名前を聞かれ、怒りに震えながら兜を脱いで妻や子を殺され復讐を誓った将軍“マキシマス・デシムス・メリディアス”だと名乗るシーンは何度見ても目頭が熱くなってくる。クロウは本作でアカデミー賞主演男優賞に輝いた。

『グラディエーター』でアカデミー賞主演男優賞に輝いたラッセル・クロウ
『グラディエーター』でアカデミー賞主演男優賞に輝いたラッセル・クロウ[c] 2000 DreamWorks LLC and Universal Studios. All Rights Reserved.

マキシマスと対峙するコモドゥスを演じたのはホアキン・フェニックス。性格俳優として『ザ・マスター』(12)や『ビューティフル・デイ』(17)、近年は「ジョーカー」シリーズでも絶賛されたフェニックスだが、20代半ばの当時まだ青春スター枠だった。大作に出演するのもこれが初で、スコットによると当初は戸惑いもあったという。ただし、のちの片鱗を感じさせる狂気を振りまくシーンもある。

圧巻の怪演を見せたコモドゥス役のホアキン・フェニックス
圧巻の怪演を見せたコモドゥス役のホアキン・フェニックス[c] 2000 DreamWorks LLC and Universal Studios. All Rights Reserved.

それがルッシラの息子を人質に彼女を脅すくだり。コモドゥスは姉に自分の力を誇示し、「余は情け深いだろう?」と口づけを迫るが、彼女が顔を背けた途端語気を荒げて同じセリフを絶叫する。これはホアキンのアドリブで、脚本上セリフは最初の一度きりだった。役になりきりアドリブで芝居をするのは「ジョーカー」シリーズでも見られた彼の十八番だが、その原点がコモドゥスに見て取れる。

『ジョーカー』でアカデミー賞主演男優賞を獲得するなど名実共にハリウッドを代表する演技派となったフェニックス
『ジョーカー』でアカデミー賞主演男優賞を獲得するなど名実共にハリウッドを代表する演技派となったフェニックス[c]Everett Collection/AFLO

このほか、弟の影に怯えながらマキシマスへの愛を貫くルッシラを演じた正統派美女コニー・ニールセン、威厳と苦悩をにじませ皇帝を演じたベテラン俳優リチャード・ハリス、マキシマスと友情を育む黒人奴隷を演じ、感動的なラストを締めくくったジャイモン・ハンスゥ、そしてマキシマスに夢を託す剣闘士団のオーナー、プロキシモを演じたオリヴァー・リードと実力派が集結した。なお、人間味あふれる演技を披露したリードは撮影完了を待たずに心臓発作で急死。最期の名演を味わってほしい。

2000年代における歴史大作ブームを牽引

1950~60年代にかけてブームになった歴史スペクタクル。『ベン・ハー』(59)や『スパルタカス』(60)、『クレオパトラ』(63)など超大作が次々に製作されたが、それ以降このジャンルはハリウッドのメインストリームから姿を消した。


それ以来の超大作として製作された『グラディエーター』に対し危惧する声も上がったが、公開されると世界中で大ヒットし多くの賞に輝いた。本作を機に、トロイア戦争を描いた『トロイ』(04)、スパルタ王の伝説を描いた『300 スリーハンドレッド』(07)などが製作され、スコットも十字軍を描いた『キングダム・オブ・ヘブン』(05)を監督。ロシアではティムール・ベクマンベトフ監督が低予算映画『ザ・グラディエーターII ローマ帝国への逆襲』(01)を発表するなど再びこのジャンルを復活させた。

猛獣も闘技場に放たれる
猛獣も闘技場に放たれる[c] 2000 DreamWorks LLC and Universal Studios. All Rights Reserved.

その後も『キング・アーサー』(17)など歴史スペクタクルは断続的に公開され、スコットも再びクロウと組んだ『ロビン・フッド』(10)やフェニックスと組んだ『ナポレオン』を発表したのは記憶に新しい。続編『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』では、ルッシラの息子であるルシアス・ウェルス(ポール・メスカル)を描いた本作で、スコットはどんな世界を展開するのだろうか。その予習として4Kリマスターで生まれ変わった『グラディエーター』を大きなスクリーンで堪能し、新たな伝説の誕生に備えよう!

文/神武団四郎


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