日本公開が待ち遠しい!第29回釜山国際映画祭を沸かせた、韓国映画の最前線

コラム

日本公開が待ち遠しい!第29回釜山国際映画祭を沸かせた、韓国映画の最前線

世界中から作品が集結する釜山国際映画祭(BIFF)のなかでも、特に韓国映画のチケットは毎年確保が激戦である。今年のBIFFでわけても盛り上がっていたのが、セクション「Korean Cinema Today」。大衆性とステイタスを兼ね備えた作品をプレミア上映するSpecial Premire部門、および韓国エンタメの多様性を味わえるPanorama部門には、韓国映画界のいまを伝える作品が集まった。

青い衣の剣士カン・ドンウォンVS復讐の鬼パク・ジョンミン!スペクタクル時代劇『戦と乱』

10月11日よりNetflixで独占配信中の『戦と乱』。壬辰倭乱を背景に、朝鮮最高武家の息子チョンリョと奴婢チョンウォンが友情を育むものの、ある悲劇ののちに敵対視、宣祖の側近と義兵として剣を交える歴史スペクタクルムービーだ。

奴婢として虐げられていたチョンヨンだったが、持ち前の剣術の腕で義兵となる
奴婢として虐げられていたチョンヨンだったが、持ち前の剣術の腕で義兵となる[C]Netflix

カン・ドンウォンは以前、ユン・ジョンビン監督『群盗』(13)で悪辣な両班を演じていたが、本作は奴婢で初めてのキャラクター。一度も経験がなかったものの、「両班は言葉も慎重にしなければならないし、感情表現も節制しないといけませんが、今回は両班を演じたパク・ジョンミンさんと掛け合いながらとても楽に自由に演技できました」と仕上がりに満足げだった。

 主従関係を超えてチョンウォンと絆を深めていたチョンリョだったが、悲劇に見舞われ敵対関係に
主従関係を超えてチョンウォンと絆を深めていたチョンリョだったが、悲劇に見舞われ敵対関係に[C]Netflix

本作の特筆すべき点は、パク・チャヌク監督が監修に携わっていることだ。キム・サンマン監督が『JSA』(00)で美術監督をしたことで生まれた縁で、「私がやってきた作業の長所を見てくださって、演出の提案、作品のシナリオ段階から具体的な部分までアドバイスを頂き、脚色の面でも一緒にブラッシュアップしました」と説明。撮影中は現場にあまり来られなかったが、ひとたび訪れると細かくセリフをディレクションしていったと話した。するとすかさずカン・ドンウォンが、パク・チャヌク監督とのエピソードを披露した。

【写真を見る】『戦と乱』カン・ドンウォンの躍動感ある剣さばきは必見
【写真を見る】『戦と乱』カン・ドンウォンの躍動感ある剣さばきは必見[C]Netflix

「パク・チャヌク監督が現場に初めて来られた日、私の演技をモニターでご覧になっていたところ、『“ジャムン(자문)”じゃなくて“ジャンウォン(장원)”だよ』と仰ったので、『え?』と聞き直すと(笑)、“장원급제(壮元及第、科挙の首席合格)“という言葉が出てくるセリフの“ジャンウォン”が、私の発音だと“ジャムン”に聞こえるとのことでした。そうやってすごい細かいところまで全部チェックしてくださったんです」と、世界的巨匠もこの作品に情熱を傾けてくれていたことを強調した。

ソン・ジュンギがコロンビアの犯罪王に!『ボゴタ: ラストチャンスの地』

「国選弁護人 ユン・ジンウォン」のキム・ソンジェ監督の新作、ソン・ジュンギ主演の『ボゴタ: ラストチャンスの地(原題:보고타: 마지막 기회의 땅)』は、コロンビアのボゴタで密輸に飛び込んだ韓国人のストーリーだ。1990年代後半、IMF経済危機により貧困に陥った19歳のグッキは、両親とコロンビアの首都で新たな一歩を踏み出そうとする。しかし全財産を失ったことから、グッキの父親は、ベトナム戦争の仲間で衣料品貿易業界でのし上がっていたパク軍曹に助けを求める。パク軍曹とともに地元の裏社会へ入り込んだグッキは、闇取引などで手を汚しながら頭角を現していく。

『このろくでもない世界で』に続くノワールに挑戦したソン・ジュンギ
『このろくでもない世界で』に続くノワールに挑戦したソン・ジュンギ[C]BIFF

IMF経済危機を題材とした作品はこれまでもあるが、本作はその時代に海外へ移住した移民者たちの葛藤を描いている点で新機軸と言える。2019年にスタートしていた企画が、パンデミックのため長らく撮影・公開が延期されていた。映画が完成するか不安だったグッキ役のソン・ジュンギは、舞台挨拶を迎え万感の思いが込み上げながら「台本を読んだときは、ただ『コロンビアに行ける!』と本能的に思いました。初めて完成した作品を見ましたが、これほど深い感情がある映画だとは知らなかったです。濃厚に感じられるものがあります」と明かした。

ベトナム派兵、IMF経済危機など韓国現代史をテーマに組み込んでいる
ベトナム派兵、IMF経済危機など韓国現代史をテーマに組み込んでいる[C]BIFF

『無頼漢 渇いた罪』監督がチョン・ドヨンと再タッグを組んだリベンジスリラー『リボルバー』

不正に巻き込まれた警察官スヨン。巨額の報酬と引き換えに1人ですべての罪を背負い収監されたが、約束は果たされなかった。一丁のリボルバーを手にしたスヨンは、事件に関わった人々の行方を追う。

『キル・ボクスン』に続きハードなキャラクターをこなすチョン・ドヨン
『キル・ボクスン』に続きハードなキャラクターをこなすチョン・ドヨン[C]BIFF

無頼漢 渇いた罪』(15)のオ・スンウク監督が、チョン・ドヨンと再びタッグを組み撮り上げた9年ぶりの新作。前作では、殺人の容疑がかかる恋人を待ち続けるカラオケバーのママに扮し、捜査のために近づいてきた刑事を知らずに愛してしまう哀しい女性を体現した。『リボルバー(原題:리볼버)』では一転、復讐心を燃やす女性警官をハードボイルドに演じている。スヨンを陥れる男アンディに、「最悪の悪」などのチ・チャンウク。近年ものにしてきたヒールぶりを今作でも発揮している。

ソル・ギョング主演のサスペンス『満ち足りた家族』は2025年1月公開

成功至上主義者の弁護士ジェワンと原理原則主義の小児科医ジェギュというエリート兄弟と、ジェワンの妻ジス、ジェギュの妻ヨンギョンの2組の夫婦。あるときディナーを楽しんでいた4人は、自身の子供たちの犯罪現場が撮影されたCCTVを目にしてしまう。優雅に見えた彼らの裏側にあった素顔が、窮地に陥ることで徐々に明らかになる。

敏腕弁護士のジェワンをソル・ギョングが演じる
敏腕弁護士のジェワンをソル・ギョングが演じる[C]BIFF


『満ち足りた家族』(2025年1月17日公開)はオランダの作家ヘルマン・コッホのベストセラー小説「ディナー」を原作にした名匠ホ・ジノ監督5年ぶりの新作映画で、ソル・ギョングチャン・ドンゴンキム・ヒエ、スヒョンとキャスティングも豪華な顔ぶれだ。BIFFでは上映前より「しっかりとした脚本と俳優の緻密な表現。劇場を後にしてもなお、人物が置かれた状況と感情の機微を反芻させる」と絶賛が聞こえてきた。10月16日から韓国では劇場公開もされており、日本でも来年公開が確定している。


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