“アウトロー=無頼”たちが入り乱れるなか、大泉と堤真一が一騎打ち
本作を貫くのは、荒廃した世界観だ。干ばつが飢饉の原因でもあり、大飢饉と疫病が同時に襲った時代が描かれている。そうしたトーンを象徴するのは、視界を覆うほどの“砂塵”。「こんなの、西部劇でしか観たことがない!」と思うほど、もうもうと砂塵が舞う中でのアクションシーンは、想像以上のものだった。
「本番!」の声がかかると、雑音が入らないよう静かになるのが通常の現場だが、『室町無頼』の撮影現場は違う。ブオン!ブオン!と、あちこちからけたたましい音が鳴りだす。両腕を広げたほどもある大きさの扇風機が何台も据え置かれており、一斉にこれらが回りだすのだ。スタッフたちも手持ちの扇風機を使って、本番のたびに四方八方から粉を飛ばす。
これだけの雑音が飛び交う撮影、音はどうするのか?と質問すると、こうしたアクションシーンは基本アフレコで対応するとのこと。リアリティとして現場の“音”を重んじる傾向にある現在の日本映画は、現場での同時録音が主流だが、海外映画は「オールアフレコ」を前提にサウンドデザインされている作品も多い。現場では撮影に集中し、撮影後のポストプロダクションにも時間をかける。これは贅沢なことに思える。ちなみに、砂塵として使われているのは、大麦を炒って挽いた“はったい粉”で、現場には香ばしいような甘い匂いが漂っていた。
そうして迎えた、兵衛と道賢が激突するクライマックス。堤が「僕は指揮官の役なので、直接戦うことはほとんどないはずだったんですが、撮影が進むにつれてなぜか、洋ちゃんとの『一騎討ちがみたい』と監督が言いだして(笑)」と、撮影中に生まれたシーンだったことを明かしてくれた。
“スラム化した京都”という時代背景だけあって、時代劇らしからぬ衣装も楽しめる。道賢率いる一派の衣装は、赤白のボーダーにバンダナ姿。黒髪の長髪をぐっと後ろで結わい、全身黒の衣装に鎖帷子をまとった道賢の姿は“一派のカリスマ”を感じさせるが、「道賢の衣装がね、重いんですよ。鎖帷子で。あれをちゃんと作っていただいたんで、本当に重いんです(笑)。それを着て立ち回りをしなければならなかったので、腰を痛めました」と笑いながらも、「スピード感のある殺陣というよりは、大きく見せることだけを大事にしていました。でも、“速く”となると手だけになっちゃうので、それだけは避けて、大きく、大きくということを意識しました。太刀筋がきれいに行くように、波を打たないように。速くやっていると波を打ってしまうんですよ。そうならないように重い感じで刀を振る。大きく、大きくメリハリのある動きを意識していました」と明かした。
対する大泉は「やっぱり堤さんは、アクションにも慣れてらっしゃいますから、ちょっとしたシーンが本当にかっこよくて。兵衛のもとへ数人斬ってからやってくるというシーンがありましたが、すごく趣のあるお寺で撮影させてもらったこともあって、それがまあかっこよくて。俺、この人とこの後に一対一で戦うんだ、どうしよう…みたいなね(笑)。実際に一対一の撮影でも本当に迫力があって、がむしゃらにくらいついていきました」と、対決シーンを述懐。
低く刀を構えた二刀流の兵衛が、果敢に道賢に向かっていく。ギリギリ…っと刀をぶつけ合うシーンはカメラもぐっと近づく。戦う相手は、道賢だけではない。あちこちから刀やハンマーを手にした敵が兵衛に襲い掛かる。太ももにグッと小刀を刺され、悶絶する兵衛…。傷を負うたび、衣装も顔も血しぶきに濡れていく2人。こちらも非常に長回しで見せていく。総勢200名ほどの役者・エキストラが入り乱れる、圧巻のシーンとなった。