いまの年齢の大泉洋で、いまの時代に『室町無頼』が撮られた意味を感じさせてくれる
50代を迎えたばかりの大泉にとって、 “大泉洋史上最高にカッコいい男”兵衛役は大きな挑戦となった。「身体的には本当にきつかったですけれど、兵衛という役をやるには、いまの僕ぐらいの年になって出る味わいというか雰囲気が必要だったんだなといまとなっては思っています。結果としてやっぱり、この時期に演じることができてよかったのかなと」。
一筋縄ではいかない、しかし人を惹きつける主人公像については、「非の打ちどころのないヒーローではなく、無頼というぐらいだから、どこか悪いこともいっぱいしてきたんだろうなと、時にはいい加減なところもあって。と異様なイメージです。だけど実は、ものすごく熱いものを持ってるという人なんです」「多面的だけれども、一本筋が通っているからこそ、この人なら信じられるという強さがある気がします」と語った。
「僕は正直、あまり人の上に立ってみんなをぐいぐい引っ張っていくというのはなかなか向いていないんです。人見知りでもありますし。ただ蓮田兵衛も、本来は自分が先頭に立ってグイグイいくというタイプの人間ではないと思うんですよね。だけどやるしかなかったというか、その時代のなかで表に立つしかなかった人というか。この時代というものが、人々の先頭に立って周りをぐいぐい引っ張っていくことを彼にさせた、彼もそうするしかなかったのかなという気は個人的にしています」とも分析する。堤も「立場の違いがありつつ、それでもつながっているという微妙な関係。敵対するだけではないという、そのあたりの役どころもまたおもしろいなあと思いました」と語る。2人の関係性の変化にも、注目してほしい。
足掛け8年の時間をかけて、製作にいたった本作。その間に、日本社会の“貧しさ”のリアリティが増した。「映画の舞台となっている室町の後期は、政治が機能していなくて、飢饉もあってとんでもない数の餓死者が出て、本当に荒廃しきっているのですよね。それはどこか昨今のコロナの時代に重なるものがあると思うんです」「本当に死と隣り合わせの時代だったのだろうなというのは、コロナ禍を経験したいま、想像ができました」と大泉も語っている。
一方で、クランクインに際して、本作の時代設定を「日本時代劇でも前例のない生き馬の目を抜く中世、ほぼ『マッドマックス』の世界観です」とコメントしていた入江監督。撮影当日も、「社会派なメッセージを求められることも多いけれど、映画単体としておもしろいと思える映画が一番ピュアで強い」と力強く語ってくれた。その言葉にふさわしい“エンタメ活劇”として、ジャンルを逸脱する心意気を感じさせてくれる撮影現場だった。作品の完成を楽しみに待ちたい!
取材・文/下田桃子(MOVIE WALKER PRESS編集部)