マッチョなサンタが誘拐される!ニュータイプでありながら誰もが楽しめるクリスマス映画『レッド・ワン』
変化球気味のサンタクロース像が続々登場
近代のクリスマス映画で描かれてきたサンタクロース像は、変化球気味だったという経緯もある。例えば、『バイオレント・ナイト』(22)。『ヘンゼル&グレーテル』(13)でグリム童話をアクションホラーに変換させたトミー・ウィルコラ監督は、この映画でサンタクロースを武装強盗団と戦う飲んだくれの老人として登場させた。また、『ブラザーサンタ』(07)ではヴィンス・ボーンが詐欺を働くサンタクロースの兄を演じ、『バッドサンタ』(03)ではビリー・ボブ・ソーントンがサンタクロースの扮装で金庫破りを働くアルコール依存症の男を演じるなど、品行方正とは程遠いキャラクターが、クリスマス映画の主役を飾っていた。
そもそも近代のクリスマス映画は、変化球な設定の作品こそが主流であるような印象もある。例えば、家族総出のクリスマス休暇で置いてけぼりを食らった少年を描いたマコーレー・カルキン主演の『ホーム・アローン』(90)や、入手困難な息子のクリスマスプレゼントを手に入れるため父親が奮闘するアーノルド・シュワルツェネッガー主演の『ジングル・オール・ザ・ウェイ』(96)のように、“家族愛”をクリスマスの騒動によって描いた作品。あるいは、雪が降らないロサンゼルスのクリスマスを舞台にした、『ダイ・ハード』(88)や『リーサル・ウェポン』(87)といったアクション映画も、ある意味ではクリスマス映画だと言える。『レッド・ワン』の場合は、『ブラックアダム』(22)のドウェイン・ジョンソンと、マーベル・シネマティック・ユニバースでキャプテン・アメリカ役を演じ、『ファンタスティック・フォー[超能力ユニット]』(05)ではヒューマン・トーチ役を演じたクリス・エヴァンスによる、DC×マーベル俳優がコラボしたという楽しみ方もある。
『レッド・ワン』が見せる独自のサンタクロース像
ちなみに今作では、J・K・シモンズが演じるサンタクロースが異色のアプローチで演じられている点も見逃せない。彼はスペインのアニメーション映画『クロース』(19)ですでにサンタクロースの声を演じているが、『レッド・ワン』では私たちの暮らす世界とサンタの世界とを往来しながら、“人間ではない”得体の知れない雰囲気を表出させている。筋トレで鍛えられたマッチョな姿は一見するとサンタらしくないけど、やはりサンタらしいという、独自のサンタクロース像を構築しているのだ。このことは、誰もが想像するステレオタイプなサンタクロース像が、時代にそぐわなくなったという証左の一つだが、「もはやサンタの存在は必要ないのではないか?」とまで、この映画では描かれている。劇中では、その理由の一つとして「風紀の乱れた社会傾向」が挙げられている。