マッチョなサンタが誘拐される!ニュータイプでありながら誰もが楽しめるクリスマス映画『レッド・ワン』
クリスマス映画の伝統を継承する『レッド・ワン』
誰もが感じる不穏な社会の風潮に対して戒めが必要だとするクリスマスの魔女グリラ(キアナン・シプカ)の主張は、世にまかり通りつつある厳罰を求める傾向とも無縁ではないだろう。一方で、「それでも諦めない」と諭すサンタクロースの言葉には、たとえ“ダメ人間”であっても見放さないという信念がみなぎっている。サンタクロースは「諦めないことで変化を導くはず」だと信じているのだ。そのため、大人になったジャックのサンタクロースの存在に対する認識が、一転「サンタはいる」と変化している点が重要に思えてくる。なぜならば、『レッド・ワン』のジェイク・カスダン監督は、『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』(17)や『バッド・ティーチャー』(11)などで“愛すべきダメ人間”たちを描き続けてきた映画監督だからだ。
ジェイク・カスダン監督はキャラクターを個性的に描き分けることに長け、群像劇を得意としてきたが、彼の父親であるローレンス・カスダンも映画監督として『シルバラード』(83)や『再会の時』(85)などの群像劇を手掛けてきたという共通点がある。奇しくも父親が得意としたジャンルを、息子ジェイクは継承しているのだ。先述の『ホワイト・クリスマス』や『素晴らしき哉、人生!』、あるいは、「クリスマスキャロル」を翻案した『3人のゴースト』(88)、加えて『グリンチ』(00)や『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(93)など、クリスマスを舞台にした映画では、軋轢のあった人間関係がクリスマスを機に相互理解や和解を迎えてゆくという姿を描いてきた伝統がある。昨今は意外に少なかった、予備知識なしに誰もが楽しめるクリスマス映画『レッド・ワン』にも、実は同様の伝統が継承されていることを終幕で悟ることになるだろう。
文/松崎健夫