第37回東京国際映画祭のクロージングセレモニーが11月6日にTOHOシネマズ日比谷で開催され、各賞が発表された。コンペティション部門の最高賞にあたる東京グランプリ/東京都知事賞は、吉田大八監督による『敵』(2025年1月17日公開)が受賞。最優秀監督賞、主演の長塚京三が最優秀男優賞も受賞する3冠を達成した。
東京国際映画祭は、世界中から優れた映画が集まるアジア最大級の映画の祭典。今年のコンペティション部門には110の国と地域から2023本がエントリー。コンペティション部門の審査委員長は、カンヌ国際映画祭最優秀男優賞を受賞した『花様年華』(00)やウォン・カーウァイ監督の『2046』(04)などで知られる俳優のトニー・レオン。審査員をエニェディ・イルディコー、橋本愛、キアラ・マストロヤンニ、ジョニー・トーが務めた。
吉田監督の『敵』は、筒井康隆の同名小説を映画化したもの。1974年にフランスで俳優デビューしてから実に50 年、名優として日本映画やドラマ、舞台の歴史に名を刻んできた長塚が2013年公開の『ひまわり 沖縄は忘れないあの日の空を』以来12年ぶりの主演を務め、人生の最期に向かって生きる元大学教授の恐怖と喜び、おかしみを同時に表現している。
「とても心を打ちました」と感想を口にして、大きな笑顔を見せた審査員長のレオン。「知性、ユーモアのセンスを持って、すばらしいタッチで映画を感情的なものとして完璧に仕上げた」とエレガントで新鮮な映像表現が詰まっていたと本作を絶賛した。監督賞受賞のスピーチで吉田監督は、映画祭と審査員のメンバー、そして本作の誕生からここまで見守ってくれたすべての人に感謝を述べ、「いい監督かどうかは自信が持てませんが、間違いなく皆さんのおかげでいい映画になったと思います」としみじみ。東京グランプリ/東京都知事賞にも輝き、吉田監督は「味方も意外と多いことに気づきましたね」と長塚と笑顔を交わし、「これからも映画をよろしくお願いいたします」と呼びかけて拍手を浴びた。
同作で最優秀男優賞を獲得した長塚は、スポットライトと大きな拍手に包まれながらステージに上がると「びっくりして、まごまごしています」と照れ笑い。「年を取って、ひとりぼっちで助けもなく、敵に閉じ込められてしまうという話」と本作を紹介しつつ、「味方もいるんじゃないかと、気を強くした次第です」と会場を見渡してやわらかな笑顔を見せた。
さらに「ぼちぼち引退かなと思っていた矢先だったので、うちの奥さんは大変がっかりするでしょうけれど、もうちょっとこの世界でやってみようかなと思いました。東京国際映画祭、ありがとう。味方でいてくれた皆さん、ありがとう」と心を込めると、再び会場からは大きな拍手が上がっていた。
第37回東京国際映画祭の審査員長として10日間を駆け抜けたレオンは、「東京国際映画祭に感謝したい。そしてチームのメンバー、審査員の皆さんにも感謝したい」と切り出し、「緊張しながらも刺激的でした」と充実感をにじませながら「全員一致で大好きな映画を見つけることができました」とコメント。「近い将来、また皆さんとお会いすることができれば大変うれしい」と再会を願った。安藤裕康チェアマンは「日本映画がグランプリを受賞したのは、2005年の根岸吉太郎監督『雪に願うこと』以来。19年ぶりのことです。日本映画がこれからますます進出していくきっかけになれば」と喜びを語った。また映画祭の成功には500人を超える事務局スタッフの献身的な努力が欠かせなかったといい、ボランティアにも熱烈な感謝を送って閉幕を宣言した。