「理不尽と不条理が渦巻くコロセウムは社会の縮図」
映像においては、大都市ローマを鳥瞰で捉えている場面が気に入っている。「古代ローマという大都市の壮大さと混沌がとてもリアルでした」としながらも、水をためたコロセウムで展開される“模擬海戦”のシーンにはツッコミを入れずにはいられなかったようだ。「予告でも何度も観ていたシーンですが、サメは、流石にどうかなって(笑)。古代ローマに詳しいイタリア人の夫も『サメ入れたい気持ちわかるけど、まず円形劇場内に海水を運んできて満たす、というのはちょっと難しいよね』と笑ってました。でも、サメが泳いでいると迫力と緊迫感が増すことは確か。前作もそうだったけれど、史実をもとにした戦闘を模倣するのに、結局負けるべき人たちのほうが勝ってしまうっていう。あの逆転劇はコロシアムの観客的視点として、やっぱり爽快です」とお気に入りの展開を解説。
「理不尽と不条理が渦巻くコロセウムは、結局、社会の縮図なんです。古今東西関係なく、人間が作り出す社会の実態が、戦う人間や動物たちによって演出されている。コロセウムのなかで起きていることは、いまの我々が生きる世界の、あらゆる場所や環境でも起きていることなのだという示唆を前作でも感じましたが、続編はその点が更に強調されているように感じます」と、前作からより色濃くなったポイントを挙げる。「このご時世にこのような映画が作られた意味は深いですね。古代ローマの一千年というのは、人間というのがどういった生物で、どのような社会を築いて、どのような統括を試み、どうやって周りと争って、どのように崩壊していくのかが全て盛り込まれています。人間という生態を知りたいのであれば、古代ローマの歴史に大体全ての答えが書かれているでしょう。なので、『グラディエーター』という映画は、もちろんスペクタクル映画としても楽しめるけれど、人間観察という意味で捉えて観るとより一層楽しめるのかもしれません。立ち位置を変えて、俯瞰で自分たち人間を知るための良い素材でもあると思います」と本作の楽しみ方としての持論を展開。
ヤマザキ自身が古代ローマに惹かれる理由もそこにあるという。「古代ローマ時代に起こっていたことは、いまでも起きている。中東での戦争や紛争もその一つですし、アメリカやロシアや中国のような大国の政権を見ていると、やはり古代ローマの統括の構造や権力者たちを連想してしまいます。現代で起こっていることは、そのまま古代ローマ時代の出来事と比較できるのです。リドリー・スコットがどこまでそういったことを意識していたかはわからないけれど、この作品からは、そういったメッセージ要素も強く感じ取れますね。この作品の中にも告げ口をする人が出てきますが、古代ローマも情報操作や虚構の情報が横行してしていた社会です。そんな中において、エネルギーを出し惜しみなく燃焼させながら、自分たちの足で立ちあがっていく、そんな登場人物たちの勇気と気高さが漲る展開が心地よかったですね」。