急速に老いるビーチを訪れた家族の運命は?『オールド』
次に家族旅行でとんでもない目に遭うパターンを。M.ナイト・シャマラン監督による怪作『オールド』(21)の舞台は、風光明媚なリゾート地。2人の子どもを連れてこの地を訪れた夫婦はホテルのマネージャーの勧めで、岩壁に囲まれた美しいプライベートビーチを訪れる。数組の観光客と共に、はじめは海水浴を楽しんでいたが、異変はすぐに起こる。身元不明の死体の発見、老女の急死、そして子どもたちの急成長。実は、このビーチは24時間で50年の時が経過する特殊な場所だった!来た道からは帰れず、岩壁を登ることもできず、ここはまさに大自然の“密室”。急速に訪れる死を待つしかないのか!?旅先ではくれぐれも甘い言葉に用心を。
休暇中の家族が生死を懸けたゲームを強いられる『ファニーゲーム』
最後にミヒャエル・ハネケの問題作『ファニーゲーム』(97)。休暇中の家族の別荘に、2人の若い男が「卵を分けてほしい」とやって来る。2人は一見爽やかなのだが、挙動は少々不審だ。やがて本性を露わにした彼らは暴力を振るって一家を人質に取り別荘に立てこもり、朝までに生きていられるかどうかという恐ろしいゲームを強いる。家族の善意に乗じて支配的な行為に走る男たちの悪意。いや、家族の間にさえ本当に善意があるかどうかは怪しい。そんな疑心暗鬼と暴力性が観る者の心理を擦り減らす。ちなみに、『スピーク・ノー・イーブル 異常な家族』の元ネタであるデンマーク映画『胸騒ぎ』(22)のクリスチャン・タフドルップ監督は、本作に影響を受けて『胸騒ぎ』を撮ったことを公言している。
旅先で意気投合した家族にまつわる真実とは?『スピーク・ノー・イーブル 異常な家族』
ほかにも悪夢的な旅行映画はたくさんあるが、これらの作品で描かれる極限状態は緊張感が尋常ではなく、大いにゾワゾワ、ヒヤヒヤさせてくれる。もちろん、『スピーク・ノー・イーブル 異常な家族』も同様だ。イタリア旅行中のロンドン在住のアメリカ人、ベン(スクート・マクネイリー)とルイーズ(マッケンジー・デイヴィス)、娘のアグネス(アリックス・ウェスト・レフラー)のダルトン家。旅先でイギリスの郊外で暮すパディ(ジェームズ・マカヴォイ)とキアラ(アシュリン・フランチオージ)、その息子アント(ダン・ハフ)ら3人と出会い、すっかり意気投合する。旅行から帰って来て数週間後、パディ家から「ぜひ遊びに来て!」の招待はがきが届く。少し迷いながらも一家が暮らす人里離れた農場へ向かうベンたちだが、歓迎を受けつつも用意された部屋は汚れており、ベジタリアンのルイーズに半ば強引に七面鳥を薦めるなどどこか違和感が…。やがてダルトン家はパディ家にまつわる驚愕の真実を目の当たりにしてしまう。
旅先ではなにが起こるかわからないもので、最悪の事態を想定しておくに越したことはない。これらの作品は、本当の意味での旅の”最悪”を教えてくれるに違いない!?
文/相馬学