2024年、ひときわ輝いた河合優実。「ふてほど」『ナミビアの砂漠』『ルックバック』出演作を一気に振り返り
「ふてほど」以降の驚くべき快進撃
冒頭でも書いたように、「ふてほど」で勢いがついた河合の快進撃は驚くべきことに、そこからさらに加速する。映画プロデューサー、川村元気の同名小説を映画化したラブストーリー『四月になれば彼女は』(24)では、婚約相手の精神科医、藤代俊(佐藤健)の前から突然姿を消した動物園の獣医、坂本弥生(長澤まさみ)の妹、純役で出演。姉の独特な恋愛観を思春期の頃から見つめてきたというキャラクターで、わずかな出演シーンながら物語の謎の行方を促すような重要な役割を担っていた。
また、人気アニメ「オッドタクシー」から派生して生まれたオリジナルドラマ「RoOT/ルート」では、自分なりの正義に真っ直ぐで愛嬌ゼロのクールな探偵、玲奈を快演!W主演の坂東龍汰が演じた凶運のポジティブ新人探偵、佐藤とのオフビートなかけ合いで笑いを誘い、新たな魅力を見せつけたのだから、なんとも抜かりがない。
さらに、山田風太郎の小説を映画化した『八犬伝』(24)では八犬士の一人、犬塚信乃(渡邊圭祐)に思いを寄せる女性、浜路を美しい和装姿で体現。上述の「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」も、今度は地上波で放送されて再び話題に。河合は、病気の母親やダウン症の弟を温かい眼差しで見守る少々危なっかしいヒロインの七実に扮したが、彼女のコメディセンスと飾らない自然体の芝居に改めてスポットが当たったのも記憶に新しい。
演技派ぶりを知らしめた『あんのこと』『ナミビアの砂漠』『ルックバック』
そして、河合の圧倒的な演技力を決定づけたのが、『あんのこと』と『ナミビアの砂漠』、W主演の吉田美月喜と共に声優に初挑戦した劇場アニメーション『ルックバック』だ。
実際の事件がモチーフの『あんのこと』で河合が演じたのは、幼少期から母親に暴力を振るわれ、10代半ばで売春を強いられ、シャブ中でウリの常習犯でもある21歳の杏。ゴミ屋敷のようなアパートの一室で、男を部屋に連れ込むホステスの母親と自分が面倒を見なければいけない足の悪い祖母と一緒に暮らしている少女だが、そんなこの世の地獄から必死に抜けだそうとする彼女を、河合がボロボロになりながら演じていたから、観る者は言葉を失った。河合の身体を張った芝居が、杏の悲しみと痛み、無念を生々しく伝えるものだったからだ。それが本作のヒットに大きく貢献したのも間違いない。
『ナミビアの砂漠』で河合が演じたのは、彼女に“女優になりたい”という思いを芽生えさせた『あみこ』(17)の山中瑶子監督が、河合をイメージして産み落とした21歳のカナ。なににも情熱を持てず、恋愛も暇つぶしにすぎない、自分が人生になにを求めているのかわからない女子だ。河合はそんな衝動的で自分勝手なカナをも自分のものに。大股で闊歩する冒頭のシーンから、どこか不満気で退屈そうなカナをリアルに体現。“こういう子いるよね~”と思わせる、いまの時代を象徴するような女子像が同世代を中心とした多くの人の共感を呼び、カンヌでの高い評価と共に本作を大ヒットへと導いた。
藤本タツキの読み切り漫画をアニメ化した『ルックバック』には、河合はなんと、オーディションに合格して参加したという。ひたむきに漫画を描き続け、そのことでつながる2人の少女の青春ストーリーだが、自分の才能に自信がある藤野を演じた河合の声の芝居は初めてとは思えないぐらいナチュラル。藤野に憧れる京本を演じた吉田とのやりとりも耳に心地よく、2人の世界に自然と引き込まれていくものだったため、原作ファンにも好意的に受け入れられ、気がつけばロングラン大ヒットを記録。世界20以上の国と地域でも上映され、大きな広がりを見せているというから、それだけでも河合と吉田の声がいかにすばらしいかがよくわかる。