『アイ・ライク・ムービーズ』を徹底レビュー!「悔しみノート」の梨うまいが、大人ぶりたい少年の物語を通じて見つけた真の大人になる方法とは?
“大人”に見られようと必死に繕う日々を過ごしている私たち
「I hate movies」ローレンスとは正反対のこの台詞を、アラナはなんでもないことのように軽い音で発音する。しかしその姿は、“映画なんか大嫌い”と努めて自分に言い聞かせているようで痛々しい。本当に彼女が映画を嫌いなんだったら、レンタルビデオ屋なんかで働いているはずがないのに!
ローレンスが過去の自分を投影できる存在なのだとしたら、アラナは現在の自分を投影できる――いや、再発見できる存在だといえる。
クソクソ言いながらもそれなりに楽しそうに働いている彼女は、一見クールに仕事をこなしているように見えて、実は積極的にジョークを飛ばし、人を楽しませるサービス精神に溢れたチャーミングな人だ。一年で最も憂鬱な棚卸しさえも、明るく踊り歌いながらこなしていく“棚卸しアラナ”に至っては、同じく棚卸しを経験している書店員として、もはや尊敬に値する。だって棚卸しって、本当にクソなわけ。この部分太字に出来たりしませんかね?「棚卸しって、本当にクソなわけ!!」
まあ、ともかく。アラナがかつて俳優を目指していた過去と、その若さと野心を弄ばれ、踏みにじられたトラウマをローレンスに語って聞かせ、「I hate movies」と改めて口にするそのシーンまで、私は彼女を単にレンタルビデオ店で働いている大人としてしか見ていなかった。ローレンスを散々お子ちゃま扱いしてきたが、私も彼と何ら変わりなく「アラナって素敵な大人の女性だな~」と間抜けにも憧れの眼差しを向け、彼女が初めから大人であるかのように勘違いしていたのだ。
バイト仲間の学生たちには、私はどんなふうに見えているだろう。掃除当番をじゃんけんで決めたり、くだらない話でケラケラ笑いながら帰路を共にしたり、結構楽しく働いているつもりだけど、「いい歳してなんでこんなところでバイトしてるんだろう」って思われているんだろうか。まあ、思われているんだろうな。仕事中困ったら頼りにしてくれるし、学校生活や進路の悩みも相談してくれる。
私も“大人として”彼らに応えるが、自分がどういう学生時代を経て、なぜまともに就活もせずフリーター生活をしているのか、演劇に対する愛と情熱と憎しみの話も、精神的にバランスを崩してまだ這い上がってる途中なことも、何一つ話していない。そんなこと聞かされても、困るだろうから。全部乗り越えて今の私があるのよ、なんて、きちんとした大人の顔して言い切れる自信だって無い。無意識のうちに私もアラナと同じく、“大人”として見てもらえるように、必死で繕って毎日を過ごしている。