伝統の継承と革新を体現。50年の時を経て新たな輝きを放つ『ベルサイユのばら』吉村愛監督が語る、偉大すぎる作品に込めた”愛とこだわり”
「キャストさんは“歌える方”を前提に選出しました」
本作を特別なものにしている大きな特徴が、歌唱を交えて「ベルサイユのばら」をアニメ化している点だ。「進撃の巨人」や「機動戦士ガンダムUC」「キングダム」などを手掛ける澤野弘之が音楽を担当。キャラクターの心情を投影した数々の楽曲が、彼らのドラマを盛り上げている。ミュージカルアニメ「Dance with Devils」でも歌と物語の融合に取り組んでいた吉村監督だが、「宝塚の舞台を見ても、『ベルサイユのばら』と歌には親和性があると感じていました。感情を強調する場面や、場面展開に歌を入れています」と語る。
「耳馴染みがよく、物語に入り込みやすいものとして、ミュージカルのようなビッグミュージックというよりは、ポップス寄りの楽曲にしたいと思っていました」と楽曲の方向性を明かしつつ「最初から歌ありきの作品にしようと思っていたので、キャストさんは“歌も歌える方”として選ばせていただきました。オスカル役の沢城みゆきさんは、スタッフの満場一致で決まりました。宝塚版や、田島玲子さんが演じたテレビアニメ版など、みんなそれぞれのなかにオスカルの声があるはず。それにも関わらず、沢城さんのお芝居を見て『これがオスカルだ』と思えた。すばらしかったですね」と称え「最初にオスカルとアントワネットが決まり、平野さんのアントワネットに似合うフェルゼンは誰だろうとなった時に、加藤和樹さんのお名前があがりました。平野さんと加藤さんはミュージカルでも共演されているので、相性はばっちり。加藤さんは、紳士的な話し方もフェルゼン役にぴったりでした」とキャスト陣を絶賛。「歌のシーンは、映像の演出的にもおもしろいものにしたいなと。ストーリーラインではできないような、チャレンジングな表現をしています」というから注目だ。
原作愛を持ったスタッフ、キャストと、作品へのリスペクトとチャレンジ精神を注いだ。オスカルとアントワネット、アンドレ、フェルゼンら、それぞれが強き意志を携えて前進し、自分の生き方と愛を貫こうとする姿が胸に迫り、改めて「ベルサイユのばら」の持つ並々ならぬエネルギーを感じられる作品だ。企画が立ち上がってから約9年ほど、「ベルサイユのばら」と真摯に向き合ってきた吉村監督は「キャラクターが、作品のなかで情熱的に生きていることを感じられる。その点が『ベルサイユのばら』の最大の魅力」と語る。「歴史について調べ、絵にも情熱を込め、こんな作品をおひとりで描かれていた池田先生はパワフルすぎます!」と目を丸くしながら、「自分で道を選び、覚悟と信念を持って進んでいくオスカルの姿は、いまを生きる人にもたくさんのことを伝えてくれるものだと思います。あれくらい情熱的に生き抜けるなんてすばらしいなと思いますし、いまの自分を励ましてくれるような存在です」と、どれだけ時代を経ても輝き続ける、原作の魅力を実感する日々だったという。
オスカルは「人間はその指先1本、髪の毛1本まで、すべて神のもとに平等であり、自由であるべきなのだ」と言い放つ。吉村監督は「この言葉が持つ説得力をとても大事に描きました。沢城さんのお芝居もすばらしかったです」と話していたが、50年以上前の原作が提示したメッセージでありつつ、多様性が重視されるいまこそ、強烈に響く言葉でもある。ぜひ大きなスクリーンで細部まで見渡して、「ベルサイユのばら」の世界に浸ってほしい。
取材・文/成田おり枝