ポール・ニューマン生誕100周年!ハンサムだが人間くさい、唯一無二の魅力が味わえる名作たち
ズルい男をチャーミングに表現した『明日に向って撃て!』
ニューマンのチャーミングな一面が際立っているのが、実在の悪党ブッチ・キャシディに扮した西部劇の傑作『明日に向って撃て!』(69)。ロバート・レッドフォード演じるサンダンス・キッドと共に強盗団「壁の穴」を率いるブッチは頭の回転が早く、これまで紹介したタフなキャラクターとはまたひと味異なる頭脳派の男。
子分たちから決闘を持ちかけられれば、ズルをして勝利を収め、刺客に気づけばいの一番に逃げだすようなせこい一面も持つが、ニューマンの余裕に満ちたたたずまいがキャラクターに魅力をもたらしており、どこか憎めない。最期に見せる悪あがきなど、スマートでない一面も見せてくれる、あらゆる面で“ズルい”キャラクターだ。
変幻自在な演技で観客をもだます詐欺師に!『スティング』
同じくレッドフォードと共に悪党に扮したクライムコメディ『スティング』(73)も忘れてはいけない。1930年代のシカゴを舞台にした本作で演じたのは、せこい詐欺で身銭を稼ぐ若者ジョニー(レッドフォード)に協力する伝説的な詐欺師ヘンリー。
惰性の日々を送るダメ男として登場するが、親友が殺されたことを知ると復讐心をみなぎらせる熱さがあり、ジョニーを見守る和やかな眼差しには親しみやすさを感じる。その一方で、いざ詐欺をはたらくとなれば、堂々とした態度でダンディな色気を振りまき大物の印象を与えるなど、変幻自在な演技とニューマンの人間味が生かされたハマり役だった。
マックイーンとの演技合戦も見応え抜群『タワーリング・インフェルノ』
高さ世界一の超高層ビルの竣工パーティーで発生した火災の恐怖をリアルに描くパニックムービーの傑作『タワーリング・インフェルノ』(74)。火災現場となるグラスタワーを設計した超一流建築士のロバーツを演じた本作でも、キャラクターの多面的な胸中を表現している。
火災が起きるとレスキュー隊の如き活躍を見せる一方、パーティー中止の提言を無視されるやるせなさや手抜き工事をした業者への怒り、自らの設計物が人々を死に追いやることへの責任感など、複雑な胸中を表現。消防隊長のオハラハンを演じたスティーブ・マックイーンとの見応え抜群の演技合戦まで、完全無欠のヒーロー“ではない”キャラクターを巧みに活写した。
ニューマンのリベラルな姿勢が感じられる『熱いトタン屋根の猫』
人間の愛や欲望、葛藤を描いた『熱いトタン屋根の猫』(58)。本作で演じた大農園の次男ブリックは、美しき妻マギー(エリザベス・テイラー)と冷え切った夫婦関係を送る一方、いまは亡き親友への思いに苦悩するこれまた複雑なキャラクターだ。
酒浸りでどこか刹那的な日々を送る繊細な男の胸中を、思いつめた目つきで表現しているニューマン。ホモセクシュアルと思しきキャラクターを、同性愛への偏見がまだ強かった時代に演じており、リベラルで知られるニューマンの反骨精神が感じ取れる役柄となっている。
このほかにも酒浸りの弁護士が正義に目覚めていくリアリティのある演技が高く評価された社会派ドラマ『評決』(82)など、端正なルックスを持ち併せながら、複雑で人間らしいキャラクターを演じ、多彩な魅力を放ってきたポール・ニューマン。今回紹介した作品はどれも配信で手頃に観られるものなので、生誕100周年を機に、改めてその魅力に酔いしれたい。
文/サンクレイオ翼