「“作品の中に自分を存在させいない”というのがルール」(山田)
サンダース「山田監督の作品は、いつも100%オリジナルですか?」
山田「『きみの色』に関しては、100%オリジナルです」
サンダース「(思わず息をのんで賞賛のポーズ)オリジナルストーリーと聞いて、さらに伺いたいことが出てきました。『きみの色』はとてもパーソナルな物語に感じたのですが、個人的にどういう思い入れがあるのか、オリジナルストーリーとなにか関係性を持っているのか、どこからこの発想が生まれたのか、そこを教えてほしいです」
山田「私も何本か映画を作っていますが、本当のオリジナル作品は今回が初めてです。自分からストーリーが生まれてくるとは思っていませんでした。初めての経験だったので、最初に決めたのは“無理をしないようにするということ”でした。私は音楽がとても好きなので音楽を取り入れたいとは思いました。あと、思春期から大人になっていく人たちの目線にとても興味があって、そういったテーマでいままで作品を作ってきたので、そのテーマをちゃんと地に足をつけて描いてみようと考えたんです」
サンダース「個人的に“この部分が自分らしさだ”と思った瞬間はありました?」
山田「実はなんとなく自分の中にずっとあるスタンスとして、“作品の中に自分を存在させいない”というのが一つルールとしてあります。あくまでも私はカメラマンであり、物事を撮るというスタンスが強いんです」
サンダース「おもしろいですね」
山田「なので自分の家族だったり友だちだったり、まったく知らない人から受けたインスピレーションをフィルムに落としこむということをしています。サンダース監督は自分のパーソナルな面を作品に投影していますか?」
「振り返ってみると、自分のパーソナルな部分を入れている」(サンダース)
サンダース「それは興味深い質問です。意識的ではないんですが、でも振り返ってみると自分のパーソナルな部分を入れていることに気づかされます。例えば今回の映画だと、ロズが動物たちからモンスター扱いされるなど、様々な誤解が生じます。僕自身もしっかりコミュニケーションを取るというのが苦手で、誤解を生みがちなんです。(『リトル・マーメイド』のアリエルや『塔の上のラプンツェル』のラプンツェルなどを担当したアニメーターで、Netflixで配信中の『フェイフェイと月の冒険』を手掛けた)グレン・キーン監督が言っていたのですが、“僕らのようなアニメーション制作を志した者たちが絵を描き始めたのは、人前で演じたり言葉で伝えるのが得意ではなかったからなのではないか”と。キーン監督は僕のことを『外側がギコちない』と言うんです。例えばなにか言わなきゃいけない時に、どうやって伝えればいいかわからないから言わなかったり、あるいは言う時間がなくなってしまってつい言えずに終わってしまったりする、というようなことがあります」
山田「わかります!私も言葉が出てこないし、コミュニケーションも得意なほうではないです。でもアニメーションを作る時、絵コンテを描く時はすごく素直になれる。キャラクターと向き合う時にとてもナチュラルな言葉が生まれてくるんです」
サンダース「僕はその時に言えばよかったという、後悔がたくさんあるタイプなんですが…」
山田「私もそうです。後悔が本当にたくさんあるので、それを作品の中で消化していっている感じです」
サンダース「なるほど。山田監督の描く人物像は“こういう人いるなあ”というリアリティがありますが、それはそういうところから生まれているんですね。本当に洞察力、観察力がすばらしい。細部をちゃんと描きこめることでパワフルな物語ができあがると僕は思っています。“神は細部に宿る”と言いますからね。背景にコミュニケーションが苦手という側面があるから、私たちはコミュニケーション自体がテーマの一つになりがちなのかもしれませんね」
■『きみの色』Blu-ray&DVD
発売日:2月26日(金)
価格:Blu-ray豪華版 8,800円(税込)/Blu-ray通常版 5,500円(税込)/DVD通常版 4,400円(税込)
発売元:STORY inc.、サイエンス SARU
販売元:東宝