「避けていることは、天候が主人公の気持ちとマッチし続けること」(サンダース)
山田「ところで、『野生の島のロズ』はとても色が豊かですよね。例えば島に咲いているお花が可愛らしくてパワフルで。それを見るたびに生命力を感じていました。サンダース監督は“色”に対して大事に考えていることってありますか?」
サンダース「いい質問ですね。“色”とはちょっと違うんですが、避けていることはあります。それは天候が主人公の気持ちとマッチし続けているということです。例えば落ち込んでいる時は雨が降ります。その定石は乱していきたいと思っています。ミスマッチをねらいたいという」
山田「落ち込んでいても、空は青でいてほしいってことですね。悩んでいても大丈夫って支えてあげたいというか。フォローしたいってことでしょうか」
サンダース「今作だと動物同士がわかりあってきて、初めてロズに話かけにくる浜辺のシーンでは空の色は灰色なんです。そうすることでリアルな世界により感じられる気がするから。天候と唯一合わせたのは、雪が降ってくるシーン。ロズが山の上までやってきて、小屋を作ります。あの時だけは冬眠する動物など、なにもかも籠るようなムードと天候が合っていてもよいのではないかと考えました。小屋の中は暖かい色合いですが」
山田「だからこそ、厳しい冬の世界から小屋に入った瞬間の安心感というのがものすごくありました。すごく大好きなシーンです」
「光の三原色をベースに、無限の可能性を感じさせたい」(山田)
サンダース「“色”に関しては『きみの色』は最初のひとコマからフレッシュで、色彩がパステルではないけれど、少しふわっとした現実的ではない色合いになっていました。ストーリーを成立させるために必要な色だったのではないかと思いましたが、色彩設計は時間がかかったのではないですか?どんなこだわりがあったのでしょうか?」
山田「光の三原色というのをベースにしています。色を分解して描いていくというイメージです。主人公のトツ子は会う人固有の“色”が見えるという特殊な感覚の持ち主なで、彼女が感じる色は青と緑で、彼女自身が赤なんです。それが重なれば重なるほど、光の三原色は淡くなっていってどんどん白に近づいていくんです。その白くなる部分に彼らの無限の可能性を感じさせたいと思いました。だから最終的に3人の色が重なるほど白くなっていきます。その白を作るために、今回は色を設計しました」
サンダース「つまり登場人物にそれぞれ主軸となる色があったということでしょうか?ちょっと待ってください!僕、書き留めます。学ばないと!(紙とペンを取り出す)」
山田「きみちゃんが青、男子高校生のルイが緑で、トツ子が赤です」
サンダース「なるほど。この色設計のうえにあのリアルなセリフと人物の佇まいが合致しているわけですね。やはりアニメーションというのは手作りで、一つのコミュニティでゼロから世界を作りあげていくからまとまるし、どんなメディアよりも言いたいこと、届けたいことをクリアに伝えることができるんですね。そこが大きな魅力だと改めて感じました」
山田「アニメーションは想像することが許されるといいますか。イマジネーションをどこまでも広げていい、見ている人と同じ目線でできるというところが刺激的だと考えています。それが『野生の島のロズ』を観た時にまさしく合点がいきました。登場するキャラクターがどんどん自分の友だちのように感じられていって。だから終わってしまうのが悲しくて、悲しくて。何度も何度も観たいし、友だちにもこの感動を話したくて仕方なくなりました。久々に子どもに戻った感覚で楽しめました」
サンダース「うれしいです。そもそも映画で感動を呼ぶシーンって、実写を含めても一番描かれているのは歴代のアニメーションの劇中なんじゃないかと思っています。資質としてユニークなものもいつまでも色褪せない。そういうアニメーションをこれからも作っていきたいです」
取材・文/横森文
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