「風に吹かれて」「天国への扉」などなど…時代や人物の背景を象徴するボブ・ディランの名曲は映画でどのように使われてきた?
グラミー賞やアカデミー賞をはじめ、2016年には歌手として初めてノーベル文学賞を受賞するなど、現在最も影響力のあるミュージシャンの一人として世界中で愛されるボブ・ディラン。そんな彼の若かりし日々を題材とした伝記映画『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』が2月28日(金)より公開される。
ミネソタ出身の無名のミュージシャンがスターダムを駆け上がり、世界にセンセーションを巻き起こしていく様子を描いた本作を彩るのが、ディラン役を演じたティモシー・シャラメが歌う名曲たちだ。そこで、これまでにも多くの映画で印象的に使われてきたディランの楽曲を、ここで紹介していきたい。
「Blowin' in the Wind」
数えきれないほど多くの歌手にカバーされてきた代表曲といえば、「風に吹かれて」こと「Blowin' in the Wind」だろう。ディランをスターへと押し上げたこの名曲が登場するのが、ロバート・ゼメキス監督による『フォレスト・ガンプ 一期一会』(94)。主人公フォレスト(トム・ハンクス)の幼なじみであるヒロインのジェニー(ロビン・ライト)が、大学中退の果てに行き着いたストリップクラブで、この曲を弾き語る。
本作ではディランが脚光を浴びた1960年代をおもな背景に、ベトナム戦争や公民権運動が描かれ、反戦や人権運動のアンセムとなった「風に吹かれて」は反戦を謳うジェニーのキャラクターを表している。さらに「Rainy Day Women #12 & 35(邦題:雨の日の女)」や「All Along The Watchtower(邦題:見張り塔からずっと)」といった曲も登場することからも、ディランがいかに時代を象徴する歌手だったかがわかる。
「A Hard Rain’s A‐Gonna Fall」
1960年代、キューバ危機を背景に誕生した「はげしい雨が降る」こと「A Hard Rain’s A‐Gonna Fall」。この曲も『フォレスト・ガンプ』と同じく1960年代を中心にベトナム戦争帰還兵の姿を描いたオリバー・ストーン監督の『7月4日に生まれて』(89)で使用されている。
トム・クルーズ演じる主人公ロンが、戦争後にかつての恋人ドナ(キーラ・セジウィック)と再会を果たし酒場で会話を楽しむ一幕、帰還兵として非難される立場だったロンが反戦へと転じていくきっかけとなる重要なシーンのバックで女性歌手によって歌われている。
また、ベトナム戦争に関するアメリカ国防総省の機密文書を題材としたスティーヴン・スピルバーグ監督の『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(17)でも、反戦デモに参加する若者たちによってこの楽曲が歌われていた。
「The Times They Are A-Changin'」
同じく『7月4日に生まれて』の冒頭でロンの弟によって弾き語りされるのが、ケネディの大統領就任演説をヒントに作られたという「The Times They Are A-Changin'(邦題:時代は変る)」。子どもの頃に見たケネディの自己犠牲を尊ぶ演説を信条に行動してきたロンがベトナム行きを決意する場面で、歌の内容とリンクした楽曲使いが印象的だ。
また『スティーブ・ジョブズ』(15)では、新商品発表会の前にジョブズ(マイケル・ファスベンダー)が、どの部分を引用するかを迷っているとジョン・スカリー(ジェフ・ダニエルズ)に話す曲して、「時代は変る」の歌詞がデカデカと画面に登場。ジョブズがボブ・ディランの大ファンだったということもあり、本作では「雨の日の女」やエンドクレジットの「Shelter from the Storm(邦題:嵐からの隠れ場所)」など多くの楽曲が作品を彩った。
さらに『ウォッチメン』(09)では、スローモーションでウォッチメンとアメリカの歴史を紹介するオープニングシークエンスで「時代は変る」がかかる。歓迎されるヒーローだった1940年代から社会の厄介者として追放されていくまでの変化を表現した映像に、時代の変化を歌ったディランの音楽が見事にマッチしたオープニングだった。