押井守監督が『イノセンス』の続編に“条件付き”で意欲!「まだやり残したことがひとつだけある」
2004年に公開され、興行収入10億円のヒットを記録した押井守監督の『イノセンス』。その公開20周年を記念し、2月28日から2週間限定で『イノセンス 4Kリマスター版』(公開中)と『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊 4Kリマスター版』(公開中)の上映がスタート。3月2日にTOHOシネマズ新宿にて、押井監督とバトー役の大塚明夫によるトークイベントが開催された。
『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(95)の続編として制作された『イノセンス』は、前作の最後で草薙素子が姿を消し、残されたバトーが主人公として物語が展開。舞台は2032年。少女型の愛玩用ロボットが暴走し、所有者を惨殺する事件が発生。人間のために作られたロボットがなぜ人間を襲ったのか、捜査にあたった公安9課のバトーと相棒のトグサ(声:山寺宏一)は、電脳ネットワークを駆使して「脳」を攻撃する謎のハッカーの妨害に苦しむこととなる。
会場に集まった大勢の熱烈なファンの姿を前に、「こんなにもたくさんの方が20年も前の作品を観に集まってくださるということに胸がいっぱいになります」と挨拶した大塚は「どう演じればいいんだろうと押井さんに質問すると『簡単ですよ。バトーの恋の物語です』と言われ、あっという間に映画のつくりが見えてきました」と、20年前のアフレコ当時を回想。それを受けて押井監督は「素子が去ったあとのバトーの物語であり、生ける屍みたいになっているバトーが素子と再会する話。魂の恋愛みたいな話で、遠く離れているけど互いに想い合っています」と説明。
また、『イノセンス』が制作された経緯について訊かれると押井監督は「プロダクションI.G.の石川光久社長に呼びだされたんです」と、アニメ作りから離れていた時期にスタジオに戻ってくるよう言われたことを振り返る。「やるなら『攻殻機動隊』の続編をやってみたいと素直に思いました。あのあとの素子をもうちょっと見たいというのと、部屋に残ったバトーの思いを引きずってみたい。割とすんなり話ができて、脚本も2週間くらいで書いたので、自分のなかで抵抗なくすらすら出てきた作品でした」と明かす。
一方、続編の制作を聞かされた当時の心境について大塚は「うれしくて心臓が止まるかと思いました。『なに?うそ?やれるの?』という感じでした」と明かす。さらに押井監督は制作時の苦労について「イメージはできるけど、最初の『攻殻機動隊』から何年か経っていて同じじゃない部分があった。でも第一声が入った時に、つながった感じがしました」と振り返ると、素子とバトーの再会のシーンでのセリフを例に挙げ「『変わってないわね』というセリフは、2人が変わったから言えること。その機微を監督は考えるんです。どうやって表現してもらうか、そういうことがこの作品をやったことの意味のすべてと言っていいと思います」と熱弁を振るった。
その後2人は、作品にちなんだ5つの質問にそれぞれ○×で回答。「20年前に戻れるとしたら戻りたい?」「義体化したい?」「自分を動物に例えるなら、やはり犬だと思う?」「作品のなかで自分に似ていると思うキャラクターがいる?」などの質問に答えていき、最後の質問として「『イノセンス』の続編を作ってほしい?作りたい?」と訊かれると、押井監督は「条件付き」と断りを入れつつ「○」の札を掲げる。
客席から大きな拍手があがるなか、押井監督は「3本目をやりかけたこともあるし、諸事情があってかたちにならないけど、まだやり残したことがひとつだけある。それがやれるなら…」と意欲を口にする。さらに昨年亡くなった草薙素子役の田中敦子との思い出を語りつつ「『条件付き』と言ったのはそのこともある。素子をどうするのか?魂だけの存在ってわけにもいかない。声なしでやるのか?それもありかもしれない…」と、素子を演じた田中の存在の大きさに言及した。
そして4Kリマスター版ならではの楽しみ方を訊かれると「公開された時も一瞬、話題になったんですが、オープニングで人形がアップになる。目になにかが映っているんです。コンマ1秒もないと思いますが、目を皿のようにして、偶然目と脳が直結して見えたら、なにかが映っています」といたずらっぽい笑みを浮かべる押井監督。「20年経ってまたスクリーンにかかる映画ってそうそうないので、監督冥利に尽きるという一言です。映画っていずれ寿命が終わるものですけど、この作品はまだ寿命が残ってる気がします」とファンに感謝を伝えていた。
文/久保田 和馬