監督・水谷豊が“杉下右京”を撮るなら?初監督作『TAP』で心揺さぶられた瞬間
去る11月29日、水谷豊初監督の映画『TAP THE LAST SHOW』(17)のDVDがリリースされた。この日、水谷は東京・渋谷のHMV&BOOKS TOKYOで行われたインストアイベントに登壇、トークを披露すると共に、映画にも出演したHIDEBOH&ダンサーズを招いてのタップダンスパフォーマンスに目を細めていた。その幸せそうな表情に映し出されたタップダンス愛は、直後に行われたこのインタビューからも明瞭に伝わってくる。
映画を通して辿り着きたい“そこ”への憧れ
「ダンスだけで涙があふれてきた。若い頃にそういう経験をしているんです。それがどこか自分の中にあるんですね。理屈を超えて(心に)触れる世界がある。言葉を超えた“そこ”に行きたい。“そこ”に行くために(映画という)言葉を使っている…みたいなところがありました」と、構想40年の想いを語る水谷。若きタップダンサーたちの群像に、今まさに終わりゆくタップダンスホールと伝説のタップダンサーの挟持が重なる本作は、何よりもダンサーたちへのリスペクトにあふれている。
物語の中心となる登場人物5人に、水谷は本物のダンサーをキャスティング。彼ら彼女らのステージでの“顔”こそが映画的感動を呼び起こす。「彼らは芝居というものをほとんど経験したことがないわけです。でも、なんでもそうですけど(物事は)上手い下手ではないんですね。どんなに上手にやっても“そこ”に辿り着けなかったら、それはそれまでなんです。たとえ下手でも“そこ”に辿り着いたら、人の心を動かすものになる。彼らはそれを見事にやってくれました」と感慨深げに語る。
DVDの特典映像に収録されたメイキングには“監督・水谷豊”が“そこ”に触れた瞬間が記録されている。「本番中に見ていて涙があふれてきたことがあったんです。あぁ…(観客としての)自分が心を動かされてる。これは大丈夫だと」と水谷は振り返る。
“監督・水谷豊”が見た“俳優・水谷豊”
演出に全力投球していただけに、伝説のタップダンサー・渡新二郎を演じた俳優としての記憶はほぼないという。「不思議ですよね。監督として自分を見るというのは。自分のことはほとんど考えてなかったんですよね。でも、それがよかった。ベタに入り込まない役、というイメージが監督としてありましたから」と淡々と語る水谷に、あえて“監督・水谷豊にとって俳優・水谷豊は?”と訊くと、「…悪くないですね(笑)」とファニーな微笑みを浮かべた。
普段は、俳優としてあまり現場のモニターを見ないタイプだという。「ホン(脚本)を読むときも頭の中で画を想像して、頭の中で勝手に繋いでるんです。モニターを細かく見るとビジュアルが入り過ぎて、見えたものを真似しようとする。自分の映りを気にして、そこに入り込んでしまうことにもなりかねない」との自重には、監督観に繋がるセンスが感じられる。
自作自演の『相棒』を撮るのなら…
監督業については「自分の中ではスタート。この歳になって新しい気持ちですよ。何かに向かう出発」と表現する。ならば、たとえば自作自演の『相棒』もあるのでは?
「あれね、台詞が多いんですよ(笑)。喋らない(杉下)右京ならいいんだけど(笑)」。さあ、どんな監督第2作を送り届けてくれるのか。早くもそれが楽しみだ。
取材・文/相田冬二
発売中 5,076円
発売元:テレビ朝日・東映ビデオ