ヒロインの“老い”を自然かつリアルに演じる吉永小百合を医療のプロも絶賛!
北の大地を舞台に母子の絆を描く『北の桜守』(3月10日公開)。本作が120本目の映画出演となる吉永小百合はヒロイン、てつの30代後半から、認知症を発症する60代後半までの約30年を演じているが、時に若々しく、時には“老い”を感じさせるその演技を認知症治療のプロも絶賛。
物語は、主人公てつが太平洋戦争末期、ソ連軍の侵攻で樺太から北海道へやってきた30代のころと、アメリカ企業の日本社長となった息子・修二郎の元に身を寄せるようになる60代という2つの時代がメイン。時が経つにつれ、見た目だけでなく内面からも“老い”はやってくるが、そんな変化を吉永はリアリティをもって演じている。
見どころのひとつとして「鏡に映った自分の姿に向かって『寂しくないよ。こんな優しい人が訪ねてくれるのだから』と言う母を見て、息子が同居を決心する」というシーンを挙げたのは、公益社団法人認知症の人と家族の会副代表理事を務める川崎幸クリニックの杉山孝博院長だ。
杉山院長は「鏡に映った自分を他人と思い、息子を夫と思い、野菜を“つけ”で買おうとする、主人公の認知症と思われる症状と、息子を中心とした周囲の人々の対応」こそが本作の魅力であると分析する。
「認知症には過去に遡って記憶を失っていく特徴や、感情が激しく変化する特徴がある。認知症の人の気持ちを知り受け入れることで、症状が穏やかになり混乱がおさまることが、主人公と息子の交流の中から自然に理解できる」と認知症の患者を多く見てきた経験から、吉永の演技に太鼓判を捺す。
映画全体に対しても「終戦の混乱から、今日の社会的な問題である認知症までを包含したスケールの大きな作品といえる」と賛辞を惜しまない。
70歳を超えても変わらぬ美しさから、年齢を感じさせない吉永だが、本作で彼女が見せる等身大のヒロインの姿はこれまでのキャリアの集大成と言えるかもしれない。
杉山孝博(すぎやまたかひろ)
川崎幸(さいわい)クリニック院長。1947年愛知県生まれ。東京大学医学部卒。1998年9月川崎幸病院の外来部門を独立させて川崎幸クリニックが設立され院長に就任し、現在に至る。現在、訪問対象の患者は、約80名。1981年から、公益社団法人認知症の人と家族の会の活動に参加。著書は、杉山孝博著「マンガでわかる 認知症の9大法則と1原則」(法研)、 杉山孝博監修「これでわかる 認知症」(成美堂出版)、杉山孝博監修「認知症の人の不可解な行動がわかる本」(講談社)、杉山孝博監修「認知症の人のつらい気持ちがわかる本」(講談社)など。
文/トライワークス